生態学I


1月11日の資料:


■図1:「適応」とはあいまいな概念。これに対して、「適応度」は「1個体が生涯に残す子孫数の期待値」として定義される変量である。

■個体の「適応度」と「形質値」(たとえば花の大きさや嘴の大きさ)の間に何らかの関係があれば(たとえば、大きな嘴を持つ個体ほど適応度が高ければ)、「適応度」が高い状態へと進化が進む。「適応度」と「形質値」の関係が、図のように上に凸の曲線であらわされる場合には、形質は適応度がもっとも高い状態へと進化する。この状態は、最適化モデルで予測できる。


■図2:「適応度」が高い状態へ形質が進化する機構は、「自然淘汰」(または自然選択)と呼ばれる。この機構をはじめて論理的に説明したのは、ダーウィンである。ダーウィンの論理は、4つの「公理」から成り立っている。


■図3:「優性・劣性」と、適応度の大小とはまったく関係がないことに注意。「優性・劣性」とは、同じ遺伝子座上の対立遺伝子がヘテロ接合のとき、どちらの対立遺伝子の効果が強いかをあらわす。血液型で言えば、AO, BOは、表現型のうえではA型、B型なので、A, BはOに対して優性(OはA. Bに対して劣性)である。しかし、A, Bを持つ個体の方が、Oを持つ個体より適応度が高いわけではない。


■図4:メンデルの法則が再発見され、メンデル遺伝学が発展する過程では、ダーウィンの考えと、メンデル遺伝学が対立するかのように考えられた時期がある。この2つの考え方を統一したのが、フィッシャーの「微小な変化の蓄積」モデルである。このモデルによれば、量的な形質の進化は、微小な表現型効果を持つ対立遺伝子が次々に置き換わる過程を通じて、起きる。


■図5:自然淘汰のプロセスは、実験的に検証することができる。図に示された野外実験では、白花個体がマルハナバチに好まれるために、自然淘汰によって対立遺伝子Sが増加したことを示している。


■図6:A, A'という2つの対立遺伝子からなる集団を考える。A, A'の頻度をp, qとすると、3つの遺伝子型の頻度は、AA:AA':A'A'=p2: 2pq:q2である。

■たとえば、A'A'が白花で、マルハナバチに好まれるために、黄花のAAよりも適応度が高いとしよう。この関係をあらわすには、AAの適応度を1、A'A'の適応度を 1+s とすれば良い。s は、自然淘汰上の有利さの程度をあらわす量であり、淘汰係数(選択係数)と呼ばれる。AA'の適応度は、その表現型が白か、黄色か、それともその中間かによって異なる。白の場合には1+s, 黄色の場合には1である。その中間の場合には、1+hs とあらわすことができる。hは0と1の間をとる量であり、優性度と呼ばれる。

■自然淘汰が作用したあと、次の世代(白花・黄花の場合、その種子)では、AA:AA':A'A'の割合が変化している。新しい割合が、表の一番下の段に書かれている。ここで、T=p2 + 2pq(1+hs) + q2(1+s) である。

■問題:h=0の場合について、次世代での対立遺伝子A'の頻度を計算し、どの程度増えるかを確かめてみよう。なお、次世代での対立遺伝子A'の頻度は、[AA'の頻度×0.5+A'A'の頻度]である。


■図7:h=0.5のとき、とくに共優性という。


■図8:有利な突然変異A'が表現型のうえで劣性の場合、ホモ接合にならない限り自然淘汰の作用を受けない。有利な突然変異の初期頻度が0.01のとき、ホモ接合の頻度は0.0001であり、きわめて低い。このため、自然淘汰がなかなか作用せず、有利な突然変異はほとんど増えない。共優性(h=0.5)や優性(h=1)の場合には、ヘテロ接合の状態で自然淘汰が作用するため、有利な突然変異はすみやかに広がる。共優性(h=0.5)の場合よりも優性(h=1)の場合のほうが増え方が早い。

■有利な突然変異A'が集団全体に広がると、Aの頻度が低くなり、ホモ接合AAはごく稀になる。A'が優性の場合には、Aが劣性なので、ホモ接合AAの場合に限って淘汰を受ける。その機会はごく稀なので、A'は集団全体をしめることができない。A'が共優性の場合には、へテロ接合でもAの表現型効果があらわれるので、淘汰が有効に作用し、A'がほぼ集団全体をしめることができる。


■図9:有利な突然変異A'が表現型のうえで劣性の場合でも、頻度が0.1程度まで増加すれば、ホモ接合頻度が0.01となり、淘汰が作用しやすくなる。その結果、A'が増加する。A'が優性の場合と違って、ヘテロ接合の状態でAの表現型効果があらわれ、淘汰を受けるため、ほぼ集団全体をしめる。


■図10問題:劣性有害突然変異が毎世代uの確率であらわれ、自然淘汰によってsq2の確率で除去されるとき、この両者がつりあった状態での有害突然変異qの頻度を求めてみよう。