生態学I


10月18日の資料(主なもの):


■図1:生態学は、地球上の植生の分布や、純一次生産力の分布などの地球規模のパターンから、小さな水溜りの中で生じているパターンまで、さまざまなスケールの現象を研究する学問である。

生態学はまた、生物の分布や個体数などが、時間的にどのように変化するかについて研究している。対象とする時間の長さは、数分から、数万年に及ぶ。

さまざまな生物現象の、空間的・時間的な変化を理解するには、生物どうしの関係についての研究が欠かせない。生物どうしの関係についての研究では、「進化」と「適応」という視点が重要になる。この点は、次回の講義でとりあげる。


■図2:生態学が対象とするさまざまなスケールの一例。

通常、研究者が調査できる空間スケールは、せいぜい数ヘクタールである。屋久島のスギ天然林内にある「天文の森」試験地では、1973年に1ヘクタールの調査区が設定された。1ヘクタール規模ですら、林床(林の下)の植生を全部調べるのは困難である。そこで、図に示されているように、3本のライン(緑色)に沿って、2m×2mの方形区()を単位として、150地点での植生調査(種ごとに被度を調べる調査)が実施された。私たちは、2004-5年に再調査を実施し、30年の間に林床がどのように変化したかを調べた。

屋久島全域でのパターンを把握するためには、1地点あたりの調査項目を限定して、多数の地点を調べる必要がある。これは容易なことではない。

地球規模でのパターンを把握するためには、非常に多くの観測点が必要だが、現実には少数の観測点での調査結果で大面積を代表させている。

最近では、航空写真・衛星写真などを活用して広域のパターンを把握する方法も活用されている。


■図3:「天文の森」試験地中央のライン(2×100m)に沿った1973年の調査では、44種の植物が確認されていた。これら44種に、50地点のうち、何地点に出現したかによって順位をつけ、出現地点数(%)の順位に対する変化を見たのが左図である。右図は、被度(調査区面積の何%を被っていたか)で順位をつけ、平均被度を縦軸にとって書いたグラフである。

出現区画数や被度のように、種の豊富さをあらわす量を、生態学ではアバンダンスと言う。上の図のような関係は、アバンダンス・ランク関係と呼ばれる。アバンダンスが種の順位(ランク)に対してどのように変化するかは、生物群集の性質をあらわす重要なパターンである。

左図では、ハイノキとタカサゴシダの出現地点数が若干増えている一方で、希少種が消失し、種数が44から37に減少していることがわかる。右図では、順位の高い種の被度が軒並み低下していることがわかる。このように、よく保存されたスギ天然林のなかでも、種の消失と、被度の減少が起きている。


■図4:「天文の森」試験地中央のライン(2×100m)50地点では、30年間に17種の植物が消失していた。この中には、屋久島固有種のヤクシマタニイヌワラビが含まれている。ヤクシマタニイヌワラビは、かつては屋久島のスギ林内にふつうに見られたが、現在では絶滅寸前の状態である。ヤクシマタニイヌワラビはなぜそれほど減ってしまったのだろうか。天然林の中で、林床植生は、なぜ減ってしまったのだろうか。


■図5:林床植生が大きく減少した主要な原因は、ヤクシカが増え、摂食量が増えたことだと考えられる。シカの増加は北海道から屋久島まで全国で起きており、日本の森林を大きく変化させつつある。


■図6:シカを増加させている原因は、ひとつではない。左図のように、さまざまな要因が作用していると考えられる。これは、生態学がよく直面する状況である。

生態学においては、複数の要因のどれがどの程度重要かを評価することが大きな課題である。この目的のためには、統計学が重要な役割を果たす。生態学の研究において、統計学は必須である。この授業でも、統計学の初歩について、解説をしていく。

単一の要因だけを変化させる実験ができれば、より正確な評価が可能である。通常そのような実験を野外で大規模に実施することは困難である。それでも、生態学は、野外実験による研究にチャレンジしている。このような実験を計画し、その結果を分析する場合でも、統計学が重要な役割を果たす。


■図7:シカの増加など、生物の個体数の時間変化は、個体群生態学という分野で詳しく研究されてきた。生物の個体数増加のもっとも単純なモデルは、指数増加モデルである。実際には、個体数の増加はさまざまな要因で制限される。


■図8:個体数の増加を制限する要因のひとつに密度効果がある。個体数Nが増加するとともに、それに比例して個体数の増加率が減少するモデルを考えてみる。比例定数を1/K、とおくと、Kは、その環境の下での個体数の上限をあらわす量である。このKは、環境収容力と呼ばれる。

このようなモデルは、ロジスチックモデルと呼ばれる。ロジスチックモデルの下での個体数の増加(ロジスチック成長)は、図のようにS字型となり、やがてKに近づく。


■図9:ロジスチックモデルを2種に拡張すれば、2種間の競争がどのような結果に終わるかを調べることができる。図のように、種1、種2の個体数をN1, N2とし、N1の増加とともに作用する密度効果は、N1による成分と、N2による成分の和であると考える。N1の効果を基準としたときの、N2の効果をα12とあらわす。

同様に、N2の増加とともに作用する密度効果を、N2+α21N1とあらわす。

α12,α21は競争係数と呼ばれ、種内競争に対して種間競争がどの程度強いかをあらわす。


■図10:種1、種2の個体数が変化しない点(平衡点)は、競争方程式の右辺をゼロと置くことで求められる。


■図11:図10で求めた2つの式を、横軸をN1,縦軸をN2にとってグラフにあらわすと、左図の2本の直線となる。これら2本の直線で区切られた4つの領域で、種1、種2が増えるか減るかは、競争方程式を用いて判定できる。2本の直線の配置には4つの場合があり、左図に描いた場合に限って、2つの種は共存できる。その他の場合には、種1か種2が競争に負けて、絶滅する。

他の3つの場合について、自分でグラフを書いて、どちらかの種が絶滅することを確かめてみよう。

K1=K2という場合を考えると、2種が共存する条件は、α12,α21がともに1より小さいときである。すなわち、種間競争の効果が種内競争の効果(=1)よりも小さいときに、2種は共存できる。たとえば、同種の個体どうしが集中して分布する傾向が強いときには、種内競争が卓越するので、2種は共存しやすい。


■図12:相利関係にある2種について、図11と同様な図を描いて、共存条件を考えてみよう。