生態・分類・進化学関連分野の学術動向と研究費のありかたに関する調査


生態・分類・進化学関連分野の学術動向に関する問題提起 (2006年7月23日)


問題提起文書へのコメント(2006年7月28日更新)


テクニシャンの問題 外国と日本の違いとして感じる大きなことの一つはテクニシャン の存在ではないでしょうか?何でも自分でやるからこそ見えて くるということもあるのですが、専門的な測定などをテクニシャン がやってくれるという体制はすごく楽だと思います。日本の大学 や研究所にも技官というポストがあるのですが、うまく活用されていず、 人数が減らされていく傾向があります。ここが充実しないと厚み が増さないのではないでしょうか。
研究者の層を厚くする方策 生物系の研究者としては公立の研究所の研究員がいると思います 。これは農林水産および環境系中心で各都道府県に100名程度 いますから全国では相当な数になります。ポテンシャルは高い と思うのですが、予算面の制約、トップダウンの研究テーマ、 人員配置の不的確性などにより十分な活力になっていません。 うまく活性化すると戦力になりうると思います。
長期研究と演習林等の活性化 ご指摘の通り長期研究が非常に重要で、大学演習林等の施設および 人員の活性化もすごく重要だと思います。そこにはまだ技官といった 職種もありますのでその人たちの活性化も必要と思いました。
文書の現状認識の妥当性 きわめて妥当だと思います
これから大きく発展する可能性のある研究課題・領域 遺伝子を用いた生物多様性の網羅的な把握.地味で研究とはいえない(事業である)という人がいるかもしれませんが,これこそ人類の「飛躍知」につながるのではないでしょうか.もちろん対象はすべての生物群です.
フロンティア領域の発展を促進するために有効な方策 生物多様性研究でアメリカ合衆国とがちんこ勝負をするのは避けた方がよいでしょう.日本の地の利(四方を海に囲まれた海洋国家,あるいは生物多様性の大きな中心である東南アジアに隣接している)をいかした生物群を選定し,そこから突破口を開いていくのが無難なような気がします.
応用分野への有効性 日本の場合には、どうしても基礎100%の主張は弱いように思います。やはり、生 態・分類・進化が、今後の地球環境問題を考える上で、基礎的な分野を含めてもっと 投資されねばならない分野であることをどこかで述べておいたほうが良いのではない かと思います。
たとえば、気候変動などは、メカニズムやそれにもとづくシナリオベースの予測がか なり出てきましたし、解像度がどんどん上がってきました。それによって生態的なメ カニズムとの融合が可能な解像度とも近づいており、今後は、生態系への影響や農林 水産業への影響、病気(野生生物、家畜、人間)などの問題に関する解決や予測が大 きく進む可能性が出てきています。しかし、これらの前提となる、基礎的な知見やメ カニズムの解明でまだまで遅れている部分があることは、この分野への投資の少ない 日本の弱点だと思います。
LTERに関して 【わが国は、2003年に小泉首相が提唱した「地球観測サミット」を受けて、2004年12月 の総合科学技術会議で「地球観測の推進戦略」を決定し、2005年2月の第3回地球観測 サミットにおいて、全球地球観測システム(GEOSS)10年実施計画の策定にリーダーシップを発揮した。この10年実施計画には、地球科学的な観測だけでなく、「生態系の 機能と構造及び生物多様性に関する包括的な観測」など、生物学的観測も含まれている。しかし、生物学的な長期観測に対する組織的助成はまだ整備されていない。】
というだけではなく、国際的な枠組みでは、生態系、生物多様性という項目が別々に 重要課題に挙げられていたにもかかわらず、日本の重点項目には選ばれなかった点を 強調すべきだと思います。
NCEASに関して 【National Center for Ecological Analysis and Synthesis (NCEAS) 生態学分野におけるナショナルセンターの設立と運営に関して、1995年以来、NSFが助成を行なってきた。 】
これでは、このシステムの特色がでていません。NCEASは、新しい研究動向を策定する ための重要な働きをしています。ある分野で、提案がなされると、それを審査して採用が決まりますが、そのお金では実際に研究をするのではなく、国際的にその分野で最先端の研究者を集めて、新しい研究に対するレビューとか、メタアナリシスとかを行うワークショップを集中的に行い、その成果がNatureやScienceに載ったり、新しい研究費の申請につながったりしています。日本で言えば、企画調査科研費に近いですが、もっと有効に、かつ組織的に使われているものです。日本の研究に、厚みがないひとつの理由にもなると思います。
国際的研究プログラムへの貢献(資金、人材) DIVERSITASでもIGBPでもそうですが、日本が国際的研究プログラムに対して貢献している資金的貢献が小さすぎます。これらの研究プログラムは、国際的に研究をリードする人たちが今後の研究方向を練る場所になっているので、そうしたプログラムをサポートすることは、日本の研究のレベルも、厚みも高めますし、パブリシィティも高 めます。実際に、多くの国際プログラムは資金不足状態にありますが、日本政府はこれらに対してほとんどと言ってよいほど資金面で貢献していません。また、こうした 研究プログラムの策定に関しても、人材をだしていないので、結局欧米中心のプログ ラムを後追いすることになったり、同じ研究をしても、国際的なコンテクストで評価 してもらえないという状況が起こっています。国際プログラムのコアプロジェクト も、各国でオフィスを持ち回りしていますが、そうした活動のサポートも、最近の GCPが環境省のサポートで行われた以外、GLP/ESSPも大学がサポートしているだけで、日本の政府としては方針すらもっていません。
データベースなど基礎情報の整備 たとえば、生物多様性に関してGBIFのサポートをしていますが(年間7000万円)、国内のデータベースに関しては年間1500万円程度しか研究をサポートしていません (JST)。そのため、GBIFに提供するデータの数は欧米の数に大きく水をあけられてい ます。日本にはデータそのものは多いものの、日本語のデータがおおいことも関係し ていますが、いずれにしても、データをデジタル化するための大きな資金をもたない と、過去のデータすら国際的にレベルで利用できないことになってしまいます。こうした例は、生物の分類だけでなく、今後生物の生態データや利用データでも起こって いくことですし、基礎的な研究面でも重要性の高い問題です。博物館や大学の博物館の多くが、こうした作業を研究者が行っているという現状を変えないと、これは改まりません。人材育成(必ずしも研究者だけでなく)を含めて、大きな資金投入をしなくてはいけない部分だと思います。
重点課題選択におけるワークショップの重要性 アメリカでは、多くの場合、ある話題に関する研究の方向性を討議するワークショップを開催し、その報告書が重要なReferenceになることが多いように思います。ワークショップの参加者はアメリカの人に限らず、欧州などの研究者も多く参加しています。最近出版された"Impact of Ocean Acidification on Coral Reefs and other Marine Calcifiers"などは、ひとつの好例だと思います. 日本の科研費システムの企画研究をもっと充実させることと、報告書の義務をきちんとすることが、ボトムアップの重点課題選択に資すると思います。
ATOLのような体系的なプロジェクトの重要性とプロジェクト管理 【大きな目標が達成可能になったとき、アメリカ合衆国では、かなり迅速に体系的なプロジェクトのデザインが描かれ、多くの研究者が目標達成に協力して取り組む体制が確立され、目標が達成されるまで、持続的かつ集中的な研究開発投資が実施される。】
この点は、まさに日本の研究費配分の問題点をはっきりと示しています。印象として、ATOLに関与していない分類学者はいないのではないかと思われるほど多数の研究者がATOLに関係しています。これはデザイン段階でじっくりと時間をかけている事と、"持続的かつ集中的投資"のほかに、プログラムの進捗状況を常にチェックする体制(日本のチェックは悪いところを指摘して、×印をつけ、投資を引き上げる懲罰的意味合いが強いが、アメリカの場合は、問題点を認知し、問題を発生させている原因を特定し、その解決のための方策を提案するものとなっている)、資金供給の的確さ(日本では、だいたい申請した研究費が70%くらいに減額されるが、アメリカでは採択されれば、申請額は100%提供されるのが普通;時には増額されることもある)大量の文書によるコミュニケーション(NSFの申請書が分厚いのは有名ですが、それだけの申請書を書けるということが、じっくり練られた研究の証だと考えられます。また、その後も報告書の厚みも半端ではありません。そのどれもが、着実にプログラムの成果が上がる原動力になっていると思います。)などの特徴を指摘したいと思います。
重点課題における国際的なチーム編成 プロジェクトの代表者はアメリカ人に限りますが、参加者は国際的なチームになっていることが多いのも特徴。
重点課題におけるマッチングファンド またいわゆるマッチングファンドを積極的に受け入れて、単独ですべての研究費をまかなうようになっていないのも、投資を有効なものにしているとおもいます。
Ecology of Infectious Disease領域における研究の遅れ 全く同感です。線虫については、世界の食糧生産の脅威であり(世界の農作物のおよそ30%が線虫が原因で失われているといわれる)、フィラリアなどの病気の原因でもあるため動物(家畜)の感染症の重要な研究テーマであろうと思うのですが、日本の専門家は実に限られています。ひとつの原因は、農業については"米"の重大な病原で無いことでしょう。今後の地球温暖化は、乾燥化につながるので、食糧生産に対する線虫の被害は拡大するはずです。また蚊が媒介するフィラリアは、マラリアとともに大きな感染症の問題となるはずです。ODAの重要な課題として取り上げてよいと思いますが。
省庁を横断した研究助成の重要性 【Microbial Observatories (MO) and Microbial Interactions and Processes (MIP) USDAと連携した助成枠であり、・・・】
このような省庁を横断した研究助成が日本では不十分です。どちらかというと、環境省がお金を出したから、学振は止める(エフォートを集計する動機はそこにあると思う)という考えですが、必要な資金量を評価し、一省庁ではまかないきれないことを認識したら、一緒にお財布に複数省庁から資金を出し合うというシステムが無いと、結局資金が小間切れになって、しっかりした研究につながらないのではないでしょうか。
フロンティア領域の設定に関して 設定に必要な情報を収集する段階で、前述のようにボトムアップのエフォートがかなり行われています。これは結局領域を実行する人材があるかどうかなどの評価におおきな役割を果たしていると思われます。
外国人による審査 【現行の「特定領域研究」の審査では、実績が重視されがちであり、フロンティア領域への助成に必ずしもつながっていない。「特定領域研究」を拡充・改組することにより、フロンティア領域への助成枠を確保し、フロンティア領域に対して公募を前提とした戦略的な支援を行なってはどうか】
多分ほとんどの方が経験されていると思いますが、NSFの申請の評価は、外国人がかなり入っています。申請書が日本語で書かれている日本の科研費の申請がすべて国際的な評価を受けるのは無理ですが、特定領域のような採択数が極めて少ないものについては、国際評価の導入は突破口になりうるのではないかと思う。研究チームが国際的に組織されていれば、英語の申請も何とかできるのでは。結局世界をリードする研究でつかう言語は英語ですから、英語が足枷になるのは、事務上の問題だけでは無いかと思いますが。
生物学的な長期観測に対する組織的助成 【生物学的な長期観測に対する組織的助成はまだ整備されていない】
地球科学の研究者のなかに、見識のある方がいて、最後に生態関係の事項は滑べりこんだというのが個人的な印象です。したがってまだ助成の整備はされていません。LTERやGEOSSなどについては、一科学者の立場からは、生態学・自然史科学が総力を挙げて取り組むべき課題のひとつだと思います。しかし、なぜかという問いに対する答えとして、我々が用意するものが十分訴える力を持っていないと自覚しています。新たな視点として"安心・安全な社会"とか"安全保障"とかの視点が必要だというのが個人的なひとつの考えです。が、もうひとつ、社会的に研究成果が"エキサイティングである"という視点が重要ではないかと思います。カミオカンデが科学的にエキサイティングであると思ってもらうために、あるいはスバル望遠鏡の研究成果が投資に見合うものだと思ってもらうために、科学者たちが送っているメッセージは見習うべき点が多い。「長期観測して、温暖化で生物相の変化が見えた」という悠長な話だけではなく、日々研究をしているのだから、その中から小粒な話題でも絶え間なく発信することが大切だと思います。ちなみに私が関係している、CoMLでは(NaGISAの親プログラム)、全資金のほぼ30%を、PO(Public Outreach)に使っています。社会が支援してくれるようになれば、科研費より力強い資金的援助が得られます。科研費は、その社会的認知につながるシードマネーとして使われるのが、もっとも効果的ではないでしょうか。 もうひとつ、LTERが重要と社会的に認知されて、競争的資金により継続するのではなく、ルーチンワークとなるようにもっていく視点が必要だと考えます。アメリカではほぼそれが達成されました。日々温度を測る気象観測のルーチンと同じように、毎日(それが無理でも毎月とか季節毎とか)生態系の基本項目を調べるお役所のようなところができるとよいと思います。 
Partnerships for Enhancing Expertise in Taxonomy このプログラムの面白いところは、アメリカにエキスパートを養成するために、博士課程の学生をヨーロッパに留学させるか、ヨーロッパからエキスパートを招聘してアメリカの学生を指導してもらうかという二つのオプションがあることです。どちらにしても、将来性のある若い分類学者を育てようというのは、分類学の専門家がどんどん減少している日本の現状からみるとうらやましい。生態学の研究においてデータの信頼性を確保するためには、分類学者が同定しないといけないのだ、という共通の認識があるのが、根底のちがいでしょう。
NaGISAプロジェクトの課題 【わが国の研究者が組織している国際的なプロジェクトとしては、世界の浅海域の生物多様性を統一したフォーマットで記載することを目的とした、NaGISAプロジェクトがある。】 サンプリングはかなり順調に進んでいますが、その分析が大きな課題です。分類学者が、ほぼ世界中のサンプルが準備されることにどこまで興味を持ってもらえるかが今後の課題です。CoMLの一課題なので、2010年までは資金的な裏づけがありますが、それまでに終わるとはとても思われません。今はGEFのサポートを得られるように努力をしているところです。
全地球スケールの分類学研究の推進策 【分類学分野では、・・・全地球スケールでの研究をさらに推進する必要がある。この課題を達成するうえでも、「長期研究」という枠を設ける措置は効果的だろう】 大型の動物の場合は、ヨーロッパなどでは、すでに博物館に地球規模のサンプルがありますが、日本には十分な標本の蓄積がない、これが大きな違いだと思います。ただ、まだ研究が十分進んでいない小型動物のグループでは、同じスタートラインに並んでいると思います。CBDの発効以来、標本の移動は容易でない場合もあり、今後は現地主義をとることも必要になるかもしれません。すると、研究者のほうが世界中を移動することになります。この条件で、分子生物学・電子顕微鏡などの手法を使えるようにすることが、今後の研究の革新的発展を支えるのではないでしょうか。
戦略的な支援を行なう課題への助成枠 これについては省庁横断 さらに民間資金も投入 という方針を提案したいと思います。CoMLは、スローン財団という民間の財団が、競争的資金では獲得が難しい研究の管理費(プロジェクトの秘書のような人の賃金など)を一手に引き受けているので、非常に助かります。またその財団から人が一人フルタイムでアドバイスをしているので、他の研究資金の獲得状況も良好です。 またCoMLは、CORE(Consortium for Ocean Research and Education)という省庁横断組織が資金源です。 科研費としては、いろいろなところから資金が取れるようにサポートをする。活動のコアになるところの資金はきちんとケアする。という戦略はいかがでしょうか。
これから大きく発展する可能性のある研究課題・領域 いわゆるエヴォデヴォ(進化発生学)と呼ばれる領域が認識されてしばらく経ちますが、これがどのような発展をするかについては私には何とも言えません.
ただ、この領域が進化生物学、それも形態進化の機構的な背景をえぐり出す方法論と してこれまでのところある程度の威力を持つことのできた背景には、言うまでもなく、 比較形態学、発生生物学、分子遺伝学・細胞学の融合がありました.
とはいえそれでも、進化自体の機構や歴史性への言及に関してはきわめて弱く、まだ まだ進化生物学の一部になったようには思えません.
これは一般的な、私の持つ印象です が、たしかに、エヴォデヴォ信奉者・研究者の中に、発生学者として始まって進化へ 二次的に入り込もうという向きと、進化生物学が根底にあってその発生学的側面を掘 り下げようとするものの2グループがあることがだんだん明瞭になってきたことは確か だと思いますそして、両者が必ずしも互いを理解していない.
フロンティア領域の発展を促進するために有効な方策 さらに学際的な融合が必要になってくるような気がします。
エヴォデヴォはこれまで
「異なった生物が成立した背景には、異なった発生プログラムとそれに見合った遺伝 子制御機構がある」
ということと、 「異なった動物間でも、由来の古い、共通の(分子レベルでの)発生的機構がある」
ぐらいしか言ってこなかったような気がします。
よく考えてみたら、これは当たり前のことです。
ただ、それを実体として見たことはなかったから、さらけ出す必要があった そして、 「とりあえず見てみたいと思っていたもの(遺伝子発現パターン、発生パターン)は、 見ることのできる限りにおいてだいたい見てしまった」という状況にあると思います そしてさらにその果てに、敏感な研究者は「これで説明になっているのか」と不安が り始めているのだと思います。
ここから先、ゲノムや遺伝子や、その制御機構を生物集団について記述し、その推移 を観察することとか、特定の形態や表現型のセット、そしてそれを特定に作り出す発 生機構がどのような具体的な遺伝子ネットワークをなしていて、それが確かに表現型 を選ぶことによってゲノムの中に残されていく特定の対立遺伝子セットによって構築 されている(されうる)のかどうか、といったようなことをどうしても示してゆかざる を得ない。
ここには技術的「てこ入れ」もさることながら(基本的にはそれは時間が解決してくれ ると思ってます)、こういった進化的文脈にのっとったダイナミズムを取り入れる上で の学問的な概念的枠組みを認識することが大事だと思います。
集団のゲノムを見ながら「淘汰」を扱えるエヴォデヴォ これが次世代であるような気がします。

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