新キャンパス内の池における生物相の変化とその原因について

1SC04281N  廣田 峻

 

はじめに

 現在,いたるところで外来種問題が叫ばれている。だがその一方で,外来種の駆除にはさまざまな反論があることも事実だ。その中でもよく耳にするのが,「在来種の減少を招いている大きな原因は開発などによる環境破壊であって,それに比べれば外来種の影響など微々たるものである」というものだ。

 現在,めだか池を始めとした新キャンパス内の池ではミズオオバコがアメリカザリガニの食害にあい全滅したなどの問題が生じている。このように目にはっきりと見える変化以外にも生物相が変化しているのではないかと考えられる。幸い2003年の調査記録が残っているので,それと比較して生物相がどう変化しているのか。生える水生植物の種数や被度によって生息している生物の多様性は影響を受けるのか,特に外来種の存在に注目して明らかにしようと考えた。

 

 

 

調査地域および方法

(1)   調査地

 調査は九州大学新キャンパス生物多様性保全ゾーンのため池で200481011日に行った。具体的には,頭池,蒲池,メダカ池,かすみ池1~36ヶ所である。なお,以下に掲載した写真はいずれも20041011日に撮影したものである。

 

 

頭池                 メダカ池

  

蒲池                 カスミ池1

  

カスミ池2                カスミ池3

 

(2)   調査方法

 調査はたも網を用いて,比較的大型の池である頭池・蒲池・メダカ池では30分間,比較的小型の池であるかすみ池では10分間岸から採集した。採集した生物はいったん別の容器に移しておき,採集終了後,種類とそれぞれの個体数を記録した。

 また,ため池に生えている植物の種類,生えている場所を記録した。

(3)   過去との比較

 2003年に行った今回と同様の調査の結果と比較した。生物相がどのように変化しているかについて明らかにするために,本論文では棒グラフを用いた。

 

調査結果

採集された生物は以下の表のとおりである。大型の池では頭池が最も種数が多く13種,蒲池とメダカ池はともに9種であった。また,蒲池にはガマとキシュウスズメノヒエ,メダカ池にはコウホネとマコモの抽水植物が生えており,植被度は頭池が0%,蒲池60%,メダカ池30%であった。

 

 

頭池

蒲池

メダカ池

ハイイロゲンゴロウ

11

5

8

ツブゲンゴロウ

5

0

0

ヒメガムシ

68

122

15

キベリヒラタガムシ

0

0

2

マメガムシ

0

2

0

コマツモムシ

10

12

16

コミズムシ

1

3

0

ハイイロチビミズムシ

6

0

0

コオイムシ

1

0

0

ヤゴ

2

0

0

ヌマエビ

32

2

1000

スジエビ

0

0

11

アメリカザリガニ

0

13

19

メダカ

15

12

16

ハゼ科の魚(未同定)

1

0

0

スクミリンゴガイ

9

0

0

オタマジャクシ

0

42

0

ウシガエル(成体)

3

0

0

カエル(不明種)

0

0

1

  

小型の池に関しては,カスミ池2が最も種数が多く9種,カスミ池35種,カスミ池13種であった。カスミ池1は他の池と比較して水生昆虫が少ないことがわかった。カスミ池1のみ抽水植物のコウホネとヒメガマ生えており,植被度は30%だった。

 

カスミ池1

カスミ池2

カスミ池3

ハイイロゲンゴロウ

0

10

33

マメゲンゴロウ

0

1

0

ヒメガムシ

0

1

3

マツモムシ

7

13

6

コマツモムシ

0

18

24

ヤゴ

0

3

0

アメリカザリガニ

4

33

27

カワニナ

0

3

0

サカマキガイ

6

0

0

ウシガエル

0

1

0

 

考察

 (1) 現在の生物相および植被度

大型の池を比較したとき,特筆すべき点は被植度が0%の頭池が最も種数が多いということだ。一般的に,被植度が0%ということは隠れ家や産卵床となる植物が無いため,生息できる生物は限られると考えられる。だが,福岡県版レッドデータブックで準絶滅危惧種に選定されているコオイムシをはじめ,水中または水面の植物に産卵するゲンゴロウ類も採集できた。これらの昆虫は飛翔能力があるので,他の池から来たものかもしれない。頭池と比較したとき蒲池とメダカ池の共通点は,アメリカザリガニの存在である。このことが,他の池で見られなかった生物が頭池で確認されたことと何か関係があるのかもしれない。

メダカ池では,ヌマエビが大量に確認された。植物の根元など障害物に集まっており,障害物の無い部分では少数しか採集できなかったことから,植物など障害物のある環境がヌマエビに適していることがわかる。植被度の高い蒲池でヌマエビが少数しか確認できなかったのは,蒲池が浅く日当たりがよいため夏場は水温が上昇し,高温に弱いヌマエビの生息には向かないからだと考えられる。また,稚エビの捕食者となるオタマジャクシ(ウシガエルだと考えられる)の存在もヌマエビが少ない一因となっているだろう。

カスミ池1は他の池と比較して水生昆虫が少ないことに関しては,カスミ池1は日当たりが悪いためだと考えられる。カスミ池1のみコウホネとヒメガマという抽水植物が生えており,植被度は30%だった。どの池でも,アメリカザリガニが大きい割合で生息しており在来種に対する影響が懸念される。

全体を見ると,景観の違いによって生息する生物も微妙に異なっているから,生物多様性を維持する上で様々な環境が必要であるといえよう。

(2) 2003年との比較

ここでは,2003年と2004年の間に各池について大きな景観の変化がなかったという前提のもとに考えて行きたい。2003年に調査が行われた頭池,蒲池,メダカ池,カスミ池3について今回の調査と比較すると次のようになった。

 

頭池(2003) 

頭池(2004)

 

蒲池(2003)

蒲池(2004)

ハイイロゲンゴロウ

0

11

ハイイロゲンゴロウ

0

5

ツブゲンゴロウ

0

5

ヒメガムシ

60

122

ヒメガムシ

0

68

マメガムシ

0

2

コマツモムシ

28

10

コマツモムシ

0

12

コミズムシ

0

1

コミズムシ

0

3

ハイイロチビミズムシ

0

6

コオイムシ

2

0

コオイムシ

0

1

ヤゴ

7

0

ヤゴ

39

2

ヌマエビ

0

2

ヌマエビ

19

32

アメリカザリガニ

3

13

メダカ

2

15

メダカ

107

12

ハゼ科の魚(未同定)

0

1

オタマジャクシ

0

42

スクミリンゴガイ

20

9

ニホンアカガエル

1

0

ウシガエル

0

3

タイコウチ

3

0

アブの幼虫

1

0

ミズカマキリ

1

0

 

 

メダカ池(2003)

メダカ池(2004)

 

カスミ池3(2003)

カスミ池3(2004)

ハイイロゲンゴロウ

142

8

ハイイロゲンゴロウ

6

33

ヒメガムシ

0

15

ヒメガムシ

14

3

キベリヒラタガムシ

0

2

マツモムシ

35

6

コマツモムシ

36

16

コマツモムシ

39

24

ヌマエビ

1000

1000

ヤゴ

11

0

スジエビ

2

11

アメリカザリガニ

4

27

アメリカザリガニ

22

19

 

 

 

メダカ

6

16

 

 

 

ウシガエル

7

0

 

 

 

カエル(不明種)

0

1

 

 

 

コガタノゲンゴロウ

2

0

 

 

 

まず頭池については,ヒメガムシとメダカが増加している。ヒメガムシは前でも述べたように移動能力が比較的高いため増加した原因をと特定することは難しい。だが,ゲンゴロウ類など水生甲虫の種数が増加していることから考えても,それなりの理由があるのだろう。

メダカの増加に関しては,調査で確認された外来生物のうちメダカの天敵であるのはウシガエルのみであると考えられる。在来種ではヤゴやコオイムシが天敵となりうるが,どちらともメダカを捕食するのはうまくないので,捕食によるメダカの生息数への影響はほとんどないだろう。ここでメダカの生息数が減少しているまたはほとんど変わっていない池に目をやると,アメリカザリガニという捕食者の姿がある。特に蒲池では,昨年の10%近くにまでメダカが減少している。さらにタイコウチやコオイムシ,ニホンアカガエルといった在来種が2004年の調査で確認できなかった。一方,外来種であるアメリカザリガニやウシガエルと思われるオタマジャクシの増加が目立つ。

 

  

メダカ池に関しては,福岡県版レッドデータブックで絶滅危惧U類に選定されているコガタノゲンゴロウを今回確認出来なかった。2003年の調査でも2頭しか採集されていないためもともと減少傾向にあったと思われる。

  

カスミ池3では,アメリカザリガニの増加が著しい。2003年の調査ではカスミ池3しか調査が行われていないが,他の池に関しても増加傾向にあるのではないだろうか。一方,ハイイロゲンゴロウを除いた水生昆虫は減少している。だが,本調査においてこれらの原因を特定するには至らなかった。

  

 

  

 

 

まとめ

(1)       本調査で明らかになったこと

  • 池の景観に応じて生息する生物にも変化が見られる。

  • 被植度が0%である頭池が最も確認できた生物の種類が多く,蒲池やメダカ池とは異なりアメリカザリガニが生息していなかった。原因は不明であるが,他の池と比較して飛翔能力を持つ水生昆虫の種数が多く,それらの昆虫は他の池から飛来したものと思われる。

  • カスミ池では,いずれもアメリカザリガニの占める割合が大きく,増加傾向にある。

  • メダカが激減した蒲池では,アメリカザリガニとウシガエルと思われるオタマジャクシが増加傾向にある。

  •  

    (2)       今後の課題

    今回の調査では主に岸からのたも網によるものだったが,水深のある頭池と浅い蒲池とでは,蒲池が池のほぼ全域にわたって調査できたのに対し頭池では岸辺付近における調査しか出来ず,偏りが生じてしまった。

    2003年の調査との比較に関しては,当時の景観がわからなかったため,1年しか経っておらずほとんど変化していないという前提のもとに比較した。しかし,最初に触れているように当時メダカ池にはミズオオバコが生えており,それがなくなった影響を無視してはならないだろう。生物相の変化は様々な要因の相互作用によってもたらされるため,今回用いたデータだけではなくさらに詳しいデータを用いた比較が必要である。

    今後は,生物相の変化を調査するとともに水質など定量的なデータの収集を行って行きたい。