メダカ池と水田

S1-38 1AG04216R 森田勝也 

 

ヌマエビが1000!?

 皆さんは池に住む生物といえば、何を思いつくだろうか?やはりメダカだろうか。それともカエルやザリガニ、ゲンゴロウなどだろうか……。そんな思いを胸に、私は20048月に行われた元岡新キャンパスでの実地調査に赴いたのである。

 しかしそんな考えとは裏腹に、ヌマエビしか住んでいないのではないかと思えるくらい、ヌマエビばかりが捕れる池があったのだ。それはメダカ池と呼ばれる池である。この池では他にもハイイロゲンゴロウ、ヒメガムシ、キベリヒラタガムシ、コマツモムシ、スジエビ、アメリカザリガニ、メダカ、カエル(不明)の計8種が今回確認された。これらの種は微々たるもので、ヌマエビがおよそ1000個体ほど捕獲されたのに対し、メダカ池での捕獲個体数第2位のアメリカザリガニが19個体しか捕獲されなかったのである。一方、この池と同じくらいの大きさである蒲池では、捕獲個体数第2位のオタマジャクシが42個体捕獲されているのに対し、捕獲個体数第1位のヒメガムシは122個体捕獲されている。また、昨年のメダカ池の調査ではヌマエビが今年と同じぐらい捕獲されていた一方で、捕獲個体数第2位であるハイイロゲンゴロウは142個体も捕獲されていたのである。

 ということは、メダカ池では種の均質化が進んでいるということなのだろうか?第一、池の生態系の最上位であるアメリカザリガニが捕獲個体数第2位でよいのだろうか?

 そのように考えていて、ふとメダカ池のそばにある水田に目をやると、稲の隙間に多くの水生生物がいることに気がついた。そこにはメダカ池ではあまり捕獲できなかったメダカやゲンゴロウが多く存在していたのである。今となっては、そのとき水田の生物相を調査しなかったことが非常に残念に思えてくる。

ところでなぜ水田にはそのように多くの生物がいたのだろうか、メダカ池と水田の違いは何なのだろうか。そしてメダカ池と水田には何らかのつながりがあるのだろうか。まずはそれら2つの相違点を挙げ、そこから2つの関係に迫っていき、メダカ池の生物多様性を高める方法を模索していくことにする。

 

1.メダカ池と水田の相違点

 調査後に一目でわかったメダカ池と水田の生物相の違い。これは両者のどのような性質の違いによるものなのだろうか……。

 ここでは水生生物による例を用いて、それらの違いをいくつか挙げることにする。

 

多様な水深(1-a)

 私は調査のためにメダカ池にはいったのだが、水深はいきなりガクンと下がり少し進んだだけで膝のところまでつかってしまった。メダカ池と水田とでは水深がどのように異なるのだろうか?そこでメダカ池の水深を池の中に植生のある場所とない場所をそれぞれ2ヵ所と水田の水路の出口の計5ヵ所の水深を陸地から20cmごとに計測した(図1)。

 

植生有り@

植生有りA

植生無し@

植生無しA

水路出口

0

-5

-5

-12

-10

-10

20

-7

-12

-16

-15

-13

40

-10

-15

-23

-27

-17

60

-13

-18

-30

-35

-30

80

-13

-25

-40

-60

-40

100

-17

-26

-53

-75

-60

(図1)

図1からわかるように植生のあるところではそれほどでもないが、植生のないところでは急に深くなっている。さらに、これは人造池では仕方のないことなのかもしれないが、陸地の表面と池の底の間に段差ができている。そしてヌマエビはこの段差に特に多く生息していたのである。ゲンゴロウとガムシについて述べると、これらの幼虫は水辺に這い上がって土中に蛹室を作るため、このような段差が存在することはこれらにとって不利であると考えられる。

だが、一見水深が一様に見える水田とは違い、メダカ池では場所によって様々な水深をとり多様な環境がある。それ故、メダカ池の方が様々な生物が多く存在していてもおかしくはないのではないだろうか。

 ということは、ただ単に水深が大きいか小さいかという問題ではなく、水深に関わる別の要素が存在することになる。そこでまず思いつくのが水温であろう。水田では水深が浅いところに直射日光を受けるため水温が上昇する。しかし、水田の水位は一様に見えるが、実は時間的、空間的変化があるのだ。そのため、ただ水温が高いだけでなく水位の変化や、メダカ池から水路によって取水しているため水口付近では水温が低く、尻水口付近では高いなどの時期や場所によって水温と水流の多様な環境が水田には存在する。もちろん図1からわかるように、メダカ池にもそのような多様な環境もあるが、ヌマエビが特に多く捕獲されたところは水深が大きく水温は低いと考えられる。例として水田に生息する魚類について述べると、主に彼らは排水路からの暖かい水流を遡上して尻水口から侵入してくるのである。また、メダカは水温13℃以下では活動が鈍るため多少とも水温の高い場所を探してそこで越冬するなど、彼らは好んで暖かい場所を利用するようである。

 水深の異なりによって水底の利用の仕方もまた異なってくるはずである。ここではその例を挙げることにする。ニホンアカガエルの産卵場所は日当たりの良い浅い水中であり、ツチガエルのそれは水草や水中に倒れこんでいる草や枝などであり、どちらも水深が高過ぎると産卵することができない。そういえば、別の機会にメダカ池を訪れたときに、その取水口付近の特に浅く、草や枝が倒れこんでいるところにカエルを何匹か確認した。メダカについては浅いところで摂餌するという習性があり、ゲンゴロウやガムシもまた浅くてよく水生植物が繁殖した場所に生息する。

また、水路も含めて水田は水深が低いため魚類などでの大型の捕食者が侵入しにくいのに対して、メダカ池は広いうえに水深が高いため空間的に大きく、捕食者と遭遇する確率が低いと考えられる。

 

植生の時間的変化(1-b)

 今回の調査で我々は各池の植生とおおよその植被率も同時に調査した。メダカ池ではコウホネとマコモが確認され、その植被率はおよそ30%であった。これらは非常に密集している場所とまったく存在しない場所とにほぼ明確にわかれていた。図1からわかるように前者では水深が小さく、後者ではそれが大きくなっている傾向がある。後者では生物がほとんど捕獲されなかったことからも、植生が水系の生物に及ぼす影響は大きいと考えられる。これに対して水田にはそれほど密集はしていないが、稲が水路を除いてほぼ一定の間隔で全体に植えられている。これはメダカ池に対して多様な環境が存在するといえるだろうか。

しかし水田にはまたもや時間的変化があったのだ。それは稲が1年間にその形を大きく変えるということである。田植え時には小さな苗が植えられ、時間がたつにつれ背丈が伸び、ついには水面にほとんど光が届かなくなるくらいまで大きくなる。ただし、メダカ池付近の水田の稲はそれほど密集して植えられていなかったため光は適度に届いていたようである。その後稲は刈り取られ、畑状の土地に稲わらや刈り株が残る。このように水田では稲によって時間的に多様な環境がもたらされているのだ。

 また、水中だけではなく周辺の植生にも違いが見られる。メダカ池の周辺はほぼ植物に囲まれている。これに対して水田の周辺は水路と畦に囲まれ、水から上がるとすぐそこにはむき出しの土が存在する。 シュレーゲルアオガエルは3〜6月に繁殖をする。卵は田んぼや池などの水際の斜面に小さな横穴を作って産みつけられる。穴の中で孵化したオタマジャクシは、雨水といっしょに流れ出て安全な水辺まで移動する*¹。このようにシュレーゲルアオガエルが産卵するには畦のような存在が適しているなど、周辺もまたメダカ池と水田の違いを生み出していると考えられる。

 

恒常的水域と一時的水域(1-c)

 上記では2つの相違点を挙げたが、更に決定的な違いがある。それは、池の水はほぼ常に存在するが、水田の水は存在する期間と存在しない期間があるということである。メダカ池はそれほど水位が変化することはなく、まして水が完全になくなるというようなことはなく、恒常的水域といえる。これに対して水田、特に乾田は一時的水域といえる。

これら2種類の水域はその水系で生活をする生物たちにどのような影響を及ぼすのだろうか。例えば、乾田では稲刈りが終わると秋耕がないかぎりカラカラに干上がってしまう。そのため1年を通して水を必要とする生物は越冬することができなくなり、ほとんどの魚類はメダカ池に移動し、水生昆虫もまた他の水域へ移動すると考えられる。こうして毎年耕作をしつづけることは中程度の攪乱に相当し、より種の多様性を高めていると考えられる。

 このように水田は一時的な水域であり、水位が1年を通して安定しない。そのため水田で産卵していたと思われるカエルやメダカなどは危険を分散するために大量の卵を産卵するだろうと考えられる。しかし水田は人間によってその水管理がなされているためそれほど危険な一時的水域ではなく、産卵された卵の多くが無事に孵化して成長したために多くの生物が確認されたのかもしれない。ただし、メダカ池付近の水田はそれほど水管理が徹底して行われていなかったため、標準的な水田よりも頻繁に水田の水がなくなっていたようである。

 

2.すべての系はつながっている

 これほどまでに異なる性質を持つメダカ池と水田……。両者は異なった別々の環境として存在しているのだろうか?それともメダカ池と水田は裏腹の関係なのだろうか?ここではそれら2つの環境のつながりや、2つの環境の存在によってもたらされることを述べていくことにする。

 

メダカ池−水田ネットワーク

 メダカ池付近の水田の特徴の1つとして、メダカ池と水田が水路を介して一連の水域となっていることが挙げられる。このように一時的水域と恒常的水域が隣接することで水路も含めて多様な環境をつくりだしているのである。そのため、そこでは多くの生物が生活環を全うさせることができるようになっているのである。1-cでは水田の水がなくなるとメダカ池も含めて別の場所に生物が移動すると述べたが、その逆ももちろんある。水田が冠水したことによって多くの生物が別の場所から一定期間水田を利用するために移入してくる。こうして空中や陸上を移動できないメダカなどの魚類も含め多くの生物が2つの環境を時期や条件によって上手く使い分け、生活環を全うしているのである。このような移動様式をもつ生物が生きていくにはメダカ池だけ、あるいは水田だけでは不十分であり、2つのつながりやそれらの周りの空間的広がり、環境の多様性が必要なのである。

 

水域−陸域ネットワーク

 このことは水系に限ったことではない。水系とそれをとりまく陸地などにもなんらかの関係があるはずである。さまざまなタイプの水域と陸域がモザイク構造をなし、それらを行き来することでメタ個体群が維持されているのが湿地性の生物の特徴であるとするなら、生息場所間の分断は両生類を基盤とする食物網を破壊させる致命的な要因となるに違いない*²。メダカ池と水田がある場所は周りをアスファルトの道や段差の大きなコンクリートで三面護岸された川やコンクリートの壁に囲まれている。メダカ池の多様性が多少とも失われたのはこのためかもしれないと考えている。

 このようにメダカ池と水田、そしてそれらをとりまく陸域までもが密接な関係でつながっていることがわかる。先ほど、今年はメダカ池の生物多様性が低くなり、水田では多くの生物が確認されたというようなことを述べていたが、そうではなかったのではないだろうか。メダカ池も水田も1つの水系とみなせば、昨年とはそれほど変わらないように思えてくる。それでは、これらを1つの水系とみなし、さらに生物の多様性を高めるにはどのようにすればよいのだろうか。

 

3.生物の多様性を高めるには

 水田の登場により新たな環境が加わったメダカ池。今後この水田がメダカ池の生物相の均質化を防ぐカギとなるのではないだろうか。そこで、ここでは水田を中心にしてメダカ池の生物多様性を高める方法を考えていくことにする。

 

水田の質をガラッと変える耕作方法(3-a)

 冬や春先になるとよくみかける刈り株の並ぶ田んぼ。これはお馴染みの風景となっているかもしれないが、実は水田はこれだけではない。この水田は乾田と呼ばれるのに対して、1年中冠水状態にある水田は湿田と呼ばれている。

現在メダカ池付近の水田は2筆あるため、片方の水田を一年中冠水状態にして湿田にしてみてはどうだろうか。ゼミのはじめにメダカ池を訪れたときには水田には水がなく、陸生の植物が繁殖していた。そこで今まで水田に水のなかった期間に冠水状態にすればその期間も生物は水田を利用することができるため多様性が高まるのではないかと考えたのである。以下ではその例を挙げる。

 もし上記のことを行えば水田での様々な生物の繁殖期間が長くなる。例えば、ニホンアマガエル(4〜8月)、ニホンヒキガエル(10月〜翌年5月)、トノサマガエル(4〜7月)、シュレーゲルアオガエル(3〜6月)、ニホンアカガエル(1〜3月)、コマツモムシ(4〜5月)などが挙げられる。ここで ( )内はその生物の繁殖期を示している。さらに産卵、孵化後もオタマジャクシや水生昆虫の幼成虫、メダカなどが水田で越冬することができる。1-aでも述べたように凍結さえしなければ冬の間も水田の水温はメダカ池のそれよりも高くなっているはずなので越冬には適した環境だと考えられる。

 ただ、1-dで述べたことも考慮すると、やはり両方ではなく片方の水田だけを湿田化するほうが良いだろう。そうすることによってまた様々な環境が存在することとなるはずである。

 これらは現在あるメダカ池付近の小さな水田についてのことだが、現在製作しているような広大な水田についてはどうであろうか。そのような広大な水田であれば調整水田を設ける場合、1筆すべてを調整水田にするのではなく1筆中の一部で耕作を、一部で無耕作を行い、毎年その場所を変えるということをしてみてはどうだろうか。そうすることによって1筆の水田の中に稲のある所とない所という2つの異なった環境をつくることができる。

 いずれも耕作方法を変えるだけでメダカ池における水田の役割がずいぶんと変わってくるのではないだろうか。しかし、こうも稲作の農事暦に対応した生物が多く存在することは驚くべきことである。今後も上記の方法を適用することによって、水田を利用する生物の生活環に関わる新たな発見があるかもしれないと考えている。

 

水田でもあり池でもある場所 (3-b)

 メダカ池と水田のつながりにおいてそれらの接点である水路もまた重要な場所ではないだろうか。そこで次に水路について述べることにする。

水路の側面を石積みにすることによって石の隙間に生物の隠れ場所を設けることができる。もちろん素掘りのままでも問題はないが、コンクリートによるものは好ましくない。また流路の途中に深いところや無駄に曲がりくねったところなどを設けることにより様々な環境がつくりだされる。水路を出た水はそのまま水田に入ると考えているひとはいないだろうか。もちろんそのようなところもあるだろうが、そうでない水田もあるのだ。

 元来、水田は幅1050cm程度の小溝もしくは側溝によって取り囲まれ、そこから水が供給されていた。小溝は魚類にとって水田に侵入する経路や繁殖場所、餌場となる。小溝はもともと素掘であり、底質は泥や砂礫、通水後の小溝の中には冠水した植物が残され、それが魚の隠れ場所となっていた*³。このような小溝なるものをメダカ池付近の水田にも取り入れてみてはどうだろうか。 マワシミズとは、冷水が直接水田にかからないようにするため、畦際に手畦を築いて水をひと回りさせてから水田に入るようにしたものである*。ちなみに、図が手に入らなかったため本当であるかはわからないが、小溝とマワシミズは同一のものではないかと考えている。

 また、全国にはこのようなものまである。 田へ導かれた水はそのままでは低温すぎるので、畦と稲を植える面の間に「ぬるめ」とも呼ばれる溝が掘られ、そこでいったん暖められた水が田に引かれる仕掛けになっている*。これは先ほどのマワシミズのようなものだが、どうやら様々な形式のものがあるようだ。例えば、大町市上原地区の「ぬるめ」は長さ300m、幅1618m、水深10cmと大規模なものであり、地図上にも記載されている。ぬるめ内は水温が高いため、上陸時期が遅いオタマジャクシなどが越冬に利用することができる。ちなみに稲の耕作に最適な水温は2530℃(気温、地温等気象条件を考慮しない場合)だそうである。

 

4.まとめ

 はじめ、水田は多様性が高く、生息する生物も目に見えて多いのに、メダカ池はそうではないと、メダカ池と水田を別々にとらえていた。しかしこの2つは水路を介してつながっており、メダカ池、水路、水田の3つで1つの系をなしているのだと考えるべきなのである。そしてそこに生息する生物は時間をかけて稲作の農事暦に適応してきたからこそすすんで水田を利用し、また必要に応じて3つを使い分けているのである。水田はもはや多くの生物にはなくてはならない存在であり、今後はこの系のつながりを重視し、水田を利用して水系の生態系の保全を行うようにするのが良いだろう。

 

参考図書

*1,5 奥山風太郎 著『山溪ハンディ図鑑9 日本のカエル』

*2  長谷川雅美 著『水辺環境の保全‐生物群集の視点から‐』朝倉書店

*3  片野修 著『〃』〃

*4  野比1998)

その他

『転作全書4 水田の多面的利用』農文協編、『福岡市動物生息状況調査報告書』福岡動物研究会(昭和60年3月)編、佐原雄二 著『メダカとヨシ』岩波書店