水生生物チーム草稿


2004年11月30日(廣田 峻・森田勝也)


はじめに

 「兎追いし彼の山 小鮒釣りし彼の川」

「故郷」(高野辰之 作詞 岡野貞一 作曲)ように,水辺を読み込んだ歌は沢山あります。それほど,水辺は私たちにとって身近なものであるとともに,子供たちの格好の遊び場でした。 そこは意識することなく自然とふれあえるとともに,命の大切さを学べる理想的な場所です。

川の中を覗き込み,魚を追いかけた経験。

自分の幼い頃を回想するとき,こういった経験を思い起こす人も多いはずです。逆に子供の頃,思いっきり自然の中で遊びたかったと思う人もいるでしょう。

しかし,そんな水辺も開発とともに失われているという現状があります。メダカを追い,タガメを捕った水路は三面コンクリートになり,田んぼの周りの畦もコンクリート製に変わりました。 水質汚濁などで魚が生息しにくくなった川もあります。環境問題が取り沙汰される中で,不満の残る開発が行われているのが現状なのです。

 そんな中で,九州大学新キャンパスには,造成によって失われる自然を最小限に抑え,人間と自然がよりよい関係を作るために生物多様性保全ゾーンがあります。ここではその水辺環境について取り上げます。


生物多様性保全ゾーンには,いくつかの池があり,そこには造成によって棲家を追われたものをはじめ様々な生き物が生息しています。


 このように自然が 豊かな生物多様性保全ゾーンですが,現在様々な問題が発生しています。そのひとつが外来種の存在です。代表的な外来種としてアメリカザリガニが挙げられます

 ザリガニといえばみなさんにもお馴染みのあの子どもの遊び相手です。今大人の方々は子どもの頃に1度ぐらいは川でザリガニ釣りなるものを経験したことがあるのではないでしょうか。 それに比べ現在では,子どもが川でザリガニ釣りを楽しんでいるのをめっきり見なくなりました。「あんなにいたザリガニはどこにいってしまったのだろう。」なんて考えているひともいるのではないでしょうか(笑)。とんでもない! ここ元岡キャンパスでは現在増加中です。2003年に先輩方が行った実地調査の結果( 解説)と2004年にわたしたちが行った調査結果(解説1,2)を比較したところ、アメリカザリガニが全体的に増加傾向にあることがわかったのです。 特にカスミ池ではその割合が1年で約3.67%から約29.03%と7.91倍にもなっているのです。

 それでは何故,アメリカザリガニの増加がそんなに問題なのでしょうか。いや,そもそも外来種がもたらす影響とはいったいどのようなものなのでしょう。 これからは,生物多様性保全ゾーンに生息する外来種を取り挙げ,その影響について考えていきたいと思います。

 このように,それまでその地域に存在していなかったこれらの種が突然現れれば,その種に対する防御機能を有していない在来種は簡単に捕食され,競争力の弱い在来種は競争に負け,減少してしまう傾向にあります。 また生物学的に近縁の在来種との交雑による遺伝的攪乱や,在来種への病気・寄生虫の媒介などを引き起こす危険性もあるのです。このような理由で外来種は時として駆除の対象になってきました。

 このような問題以 外にも移転が進むにつれて野生生物と人間が接する機会が多くなるため,様々な問題が発生する可能性があります。我々はどのように自然に接するべきなので しょうか?


今後の展望

生物のお持ち込みはご遠慮願います。―

 ところで,これほどの影響を与える外来種をすべて駆除しなければならないのでしょうか?それは場合によります。 例えば,その生態系にもともといた種に取って代わり,定着したことでその種の役割を担ってきた外来種を根絶やしにしてしまったときには生態系に新たな問題が発生してしまうこともあるでしょう。 そういった場合には,駆除と平行して在来種が再び生息できるための取り組みを行わなければならないのです。しかし,アメリカザリガニについては違います。彼らがキャンパス内にいない方が生物相の均質化を防げるなど,生物多様性の保全には有利だと考えられるからです。

 今現在もキャンパス内で進む外来種問題。全国的にも外来生物法(参考資料)が成立するなど関心が高まっています。 そんな中,わたしたちはいったい何をすべきなのでしょう?

 やはりキャンパス内の外来種,特にアメリカザリガニを駆除しなければいけないでしょう。それも10匹20匹ぐらいではなく,ほぼ完全にキャンパス内から姿を消すまで徹底的にしなくてはいけません。 しかし2003年の調査ではデンジ沼で186匹ものアメリカザリガニが確認されたため,それほど簡単なことではないようです。

 次に外来種の問題を未然に防ぐことを考えなければならないでしょう。やはり1番手っ取り早いのは、これ以上キャンパス内に外来種を侵入させないということです。わたしたちもがんばりますが,これについてはみなさんにも協力してもらわなければいけません。 もしキャンパス内で釣りを楽しみたいがために池にブラックバスやブルーギルなどを持ち込んでしまうと,アメリカザリガニと同じように急速に広がり水系の生態系に更なる悪影響を及ぼしてしまうのです。これは本当です。現在も日本各地でブラックバスやブルーギルにまつわる問題が起きているのです。 たった1匹でも,侵入すれば生態系にどれだけ影響を及ぼすかわかりません。これを読んでいるみなさん,約束して下さい,決して持ち込まないと。

自然の中で ―

 あれはダメ,これ もダメではみなさんもつまらないでしょう。どうぞ池の中に入って水辺の生き物探しでもしてみて下さい,溺れない程度に。そんなことをして本当にいいのかと 思うかもしれませんね。 しかし, 子どもが池や川の中で生物採集をするのを怒る大人はあまりいないのではないでしょうか。 むしろ中程度の攪乱となって生態系によい影響を与えるかもしれません。攪乱がほとんどない場所では競争力の強い少数の種が弱い種を排除して圧倒的に優占し ますが,逆に攪乱が大きすぎる場合,攪乱に対する抵抗性が特に小さい種がいなくなってしまい,どちらも種多様性が低下してしまうのです。 しかしこの2つの間の中程度の攪乱であれば種多様性が高まるという考えがあるのです。(つまり度が過ぎる攪乱をしてはいけないということですね。)

 わたしたちとしては是非メダカ池などに入って生物採集をしてもらいたいのです。せっかく今までの自然に触れる機会の少ないキャンパスから,まだ自然の残っているこの新キャンパスに移ってきたのですから。おおいに自然に触れ,そのあり方や大切さを実感してみて下さい。 もちろんその際には上記で述べたことをはじめ,いろいろなルールもあります。まず私たち一人一人が自然とよりよい関係を築くにはどうすればよいか,問い直すところからはじめようではありませんか。

みなさんも新キャンパスとの正しく,そして楽しい付き合い方をしてみて下さい。