森林チーム草稿


2005年1月19日(澄川昌範・緒方千佳・河井憲三・河岸丈太郎)


 みなさんは、映画「もののけ姫」を見たことがありますか?簡単に言うと人間が原生林を破壊して、荒れ果ててしまった地に 、里山の姿が復活するという内容です。そもそも里山とは水田、ため池、などを含む風景であり松やスギなどの針葉樹林が植林され、クリ やカキなど果樹も豊富にあり、常に人間の手によって長年管理されてつくりあげられてきた自然です。しかし、この映画の中ではタタラ製 鉄の製鉄作業によって森林を切り開きそのために、自らの首を絞めるほど環境を破壊することになったのです。樹が育つには何十年もの時 間がかかります。人の手による開拓が余りにも急激であれば、樹が生える余裕はないのです。

 現在、世界中で毎年10〜20万km2もの森林が消失しているといわれています。日本でも昔はよく見られた光景も、山が切り崩され 、建物が建ち、私たちが自然にふれる機会がますます減っている現状があります。そのような現状が危惧される今、里山を再び取り戻そう とする動きが各地で行われています。そして、九州大学もその先頭に立って里山を守っていく努力をしていく時でしょう。

 森林には普段私たちが生活していてなかなか気付くことは直接的な利益として木材資源・水問題の点から価値を見出すことができます。 私たちが日常生活においてもっとも身近であるのは資源生産としての場でしょう。木材としての利用はもちろんのこと、薪炭材などの燃料 としての利用、しいたけやきのこの栽培、どんぐりなどの木の実など私たちが何百年も昔から関わりあい、恩恵を授かっています。また、 水資源の点からは、森林は雨水を地中に浸透させ徐々に河に送り出すので河川の流量を安定させ、さらに雨水に含まれる塵や窒素、リンを ろ過・吸収し水質の浄化をおこないます。まさに森林が「緑のダム」と例えられている理由でしょう。

 しかし、私たちが森林から受け取る利益は直接的なことだけではなく間接的にも利益を受けています。地中に張った木の根は雨水を浸透 させるだけではなく、樹木の根を斜面に張ることで、表土を保ち、土砂や土壌の崩壊・流出を防ぐ効果があります。そして、なにも森林か ら恩恵を授かっているのは私たち人間だけではなく、森の中は昆虫や動物、鳥などといった多くの野生生物の生息の場となっています。一 見遠くから見てもただの森ですが一度森の中に入ってしまえばそこは生命に溢れる場なのです。そして最近では、山をレクリエーションの 場、リフレッシュの場としてもとらえられるようになってきています。都市では、小動物や緑を見る機会は少なく、また日頃の生活でたま ったストレスを自然のなかで解消するという目的でハイキング・キャンプなど自然にふれることでリフレッシュすることが多くなっていま す。このように、森林には人間の内部にまで深く安らぎを与える効果があるのです。

 さて、一言で森林と言ってもそこからは私たちに様々な面をみせてくれます。木材・水資源としてのはもちろん、文化的価値の点からも 里山の存在は、何百年、何千年もの間、人の心に生きづき俳句・歌などを通して私たち人間の文化の一部となっています。遠い存在のよう に思われる、森林、里山の姿は私たちの生活に密着したものなのです。


『なぜ森林を守らなければならないか』というのは上に述べた通りです。

森林には、樹木・林床植物・小動物・鳥・昆虫・土壌中の微生物などたくさんの生物が暮らしています。森林という環境の中ではそれぞれの種が互いに関わり合いながら安定した生態系を保っています。鳥や昆虫によって受粉が行われたり、鳥や小動物によって種子が散布されたり、また森林の樹種はさまざまな菌類と地下で関係し合っています。森林を守るということは、森林の生態系を守るということにつながっていきます。

しかしただ木を植えて森林面積を確保するだけでは生態系は守れません。植生の保全を考える場合には送粉昆虫や種子散布動物、共生微生物、そして寄生者を含む相互作用系全体に注意をはらうことが不可欠です。種の多様性の保全のためにも、林床の植生回復にも目を向けた保全が必要となります。自然の植生の下の土壌には必ず大きな「土壌シードバンク」とよばれる種子の集団が眠っています。土壌シードバンクの種子は、温度、光、乾燥、化学物質などの環境刺激によって休眠が解除されれば発芽します。シードバンクの種子には100年以上の寿命をもつものもあり、ある時期に地上での光をめぐる競争で排除されても、別の時期に再生できる可能性があります。この土壌をそのまま移植することで、土壌微生物や寄生者も同時に移植することが可能になります。

よって、新キャンパス用地内の自然を保全するためには同敷地内またはその地域の植物や林床を使っていくことが土壌生態系を守り、森林の生態系を守っていくことへとつながっていくのです。

下に上げているのは九大新キャンパスの保全事業で行われている3つの森林移植の方法です。

高木移植

  【早期に森を形成する手段。根の周辺を抱き込むように樹木を掘り取り移植する。】 
《利点》
根の回りの土壌も同時に移植するので、林床のもつ自然環境も同時に移植できる。
《欠点》
水分を消費する幹や枝葉の剪定などを行い、地中との水収支のバランスを保たなければならない。
幹や枝葉の存在が移植の実施時期を限定する。

林床移植

  【表土を低木なども含めてブロック状に採取し、そのまま法面などに移植する。】
《利点》
林床に存在する樹木・草本・埋土種子・土壌動物・微生物などの森林生態系も同時に移植することができる。

根株移植

【樹木の幹を地表付近で切断して地下の根茎を掘り取り移植する。】
【萌芽力の強い樹種の根株を移植。】
【将来的に根株から数本の株立ちの幹が生育する。】
《利点》
支柱等が不要である。
輸送や施工費用が安く経済的である。
切断した地上部の幹や枝葉はチップ状とし、堆肥化して植生の生育基盤の改善などに有効利用することができる。
《欠点》
初期段階において地表付近からの萌芽枝が雑草と競争関係にある。


では、移植をしてしまえば後は、放っておいても森林は回復すると考え ていいのでしょうか。 石器時代など遥か昔から人間と森は密接に関わってきて、人間は森林を 利用してきました。それを考えれば人間の手の加わっていない森林は少 ないのです。だから、移植した森林を放っておいて回復させようと考え るのではなく、その森林に含まれている生態系とともに森林を回復させ ていくべきだと思います。そのためには、しっかりとした計画と作業を 継続していく必要があります。そこで森林を育てるために重要な作業を 紹介します。

(1) 下刈り

下刈りとは、植えられた苗木が雑草などに埋もれて日光が苗木に当たら ずに成長が妨げられるのを防ぐために、雑草などを刈り取る作業です。 下刈りは主に夏に行われ、苗木が雑草など他の草木よりも高くなるまで 定期的に行われます。

(2) つる切り

移植された木に雑草などのつるが絡み付くと成長の妨げになるので、絡 みついたつるを切り取る作業です。つる切りは、下刈り終了後に森林の 様子を見ながら行っていきます。

この他にも枝打ちや間伐など、森林内の光環境の改善をするための 作業などやれることは、あるはずです。

また移植した場所には孟宗竹による被害という問題もあります。竹は地 上に頭を出してから2,3ヶ月で成竹になってしまうほどの、旺盛な繁 殖力を持つため、あっという間に山を覆いつくしてしまいます。「竹は 切ることが植えること」という言葉もあるほどです。 竹を放置するとどのような被害があるのかは以下の通りです。 (1) 竹の地下茎は明るいところや養分の多い土壌に向かって1年 間に6〜8メートルも成長します。竹が繁殖して山の植生が単一化され ると微生物・虫・動物など生態系が単一化される。 (2) 針葉樹と竹は比較的根が浅いため、養分などを取り合いま す。広葉樹は根が深いため、養分を取り合わないので比較的、共存しや すいのですが、樹齢が若く、竹よりも低い樹木は日照不足が起こりま す。このようにして、スギやひのきなどが枯れてしまいます。 (3) 竹の地下茎は浅く、地表付近を横に這うように広がっていま す。竹林の放置化が進むと、地下茎が死に、地下茎から生えている「ひ げ根」が無くなります。このひげ根が土をしっかりと抱える役目を担っ ているので、無くなってしまうと土砂崩れが起きてしまいます。 このような被害を未然に防ぐため、九大新キャンパスでは環境創造舎の 方などが中心となって孟宗竹を切るなどの活動を行っています。また切 り取られた孟宗竹は竹炭にしたりするなど有効活用できればいいのでは ないかとおもいます。  


里山とは、ある村の近くにある森林と、その村の田畑や水路が一つとなって折りなす生態系のことです。人々は里山から薪や肥料を得て、また管理、活用してきました。里山とは、人の手が加わり、はじめてつくられるものなのです。 里山づくりにおいて、人が、森林から得られる恩恵を忘れず、森林と共存しようとすることが何よりも大切です。宮沢賢治の作品、「狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)」の一節には、人と森との対話が描かれています。

「ここへ畑起こしてもいいかあ。」
「いいぞお。」
「ここに家建ててもいいかぁ。」
「ようし。」
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」
「少し木貰ってもいいかあ。」
「ようし。」

最近ではこのような人と森との会話がめっきり少なくなってしまいました。それは、人の生活が、森と遠く距離をおいたものになってしまっているからではないでしょうか。人と森との距離が遠くなればなるほど、森は荒れ、人の近付きにくいものになってしまいます。

元岡では、伝統的に人と森がちゃんと対話をし、 立派な里山を維持してきました。そこに九州大学が新キャンパスを開拓をするのです。そこで、森林の面積を維持したり、豊かな生態系を作ろうと、たくさんの対策がなされてきました。しかし、忘れてならないのは、新キャンパスを利用する私達ひとり一人が森と対話をし、利用し、手を加えてゆくことなのです。そうすることによって、伝統的に作り上げられてきた、人と深い関わりをもった、愛すべき元岡の里山を維持することができるのです。