元岡地区におけるため池の現状と今後の展望   1AG03197 農学部 松村寛樹

 

1.ため池調査の重要性

 統べて事象は、絶え間ない変化にさらされていく。九州大学のキャンパス移転事業が進行中であるこの地区では、野生生物の生息環境に急激な変化が起こることが予測されるわけだが、特にため池は、周囲の森林や動物と密接な関係にあり、その変化によっては工事の継続方法に警鐘を鳴らすことができる有効な指標となり得る。今回の調査では、この地区の5つのため池の、@水質分析 A水生生物の多様性と分布 について調べた。

 

2.各ため池の現状

 元岡のため池は、山に隣接しているため、非常に幅広い生物多様性を生み出している。今回の調査対象は、頭(かしら)池・かすみ池・デンジ沼・めだか池・がま池の五つである。次項から、それぞれのため池について考察してみたい。

 

 T.頭池

   頭池は、全面がコンクリートで護岸されている。見た限りでは、その水面上に植生は見られない。この池は、今造成中の地区のすぐ下にあり、造成地から流入した土砂を溜める為に造られた。水は常に茶色く濁っており、底のほうの様子は伺えない。

 水質分析の結果では、電気伝導率が5つの中で最も高くなっている。この原因は、土砂から溶け出たミネラル分だと思われる。分析結果中のほかの項目では、BOD(生物的酸素要求量)がこころなし高かった以外では、特に目立った点は見られなかった。

 護岸されているため、一見生物資源に乏しそうだが、意外にも、今回調査したため池の中では最も多い種類の水生生物が確認された(およびを参照)ザリガニが殆ど見つからなかったことと関係があるのかもしれない。しかし、水質が悪い所に多く棲むイトミミズが見つかったのもまた、この池だけである。他では、ガムシ・マメガムシ・ジャンボタニシが、この池でのみ見られた。


                 

   [頭池見取り図]                         

                                

                                     

                      新たに造られたのり面              

もとの斜面               岩                            

                                    

                                     

                                       

※矢印:水の流れ            土砂を含んだ水      頭池   土砂の堆積           

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U.かすみ池

  今回調査したのは、隣接したかすみ池123のうちのかすみ池3である。ほかの2つの池も、水源が同じため、似たような生物・水質の構成を示すと思われる。

この池の水は、ポンプを使って地下からくみ上げているため、ほかのため池と水質がかなり異なる。今回の調査で調べた9項目のうち、BODCODMnSS・クロロフィルa・全窒素の5項目でもっとも低い値を示した。水の入れ替わり頻度が他の池より高いため、水質は安定しているものと思われる。

  つかまえた生物数は多少すくなかったが、それだけ富栄養化が進んでいないということであろうか。ミズカマキリとマツモムシは他の池より多くみつかった。ただ、汚れた水に棲むサカマキガイも同時にみつかったことから、単純な判断はできそうにない。

 

V.デンジ沼

  デンジ池は、カスミ池3に隣接している。水は雨水とカスミ池からのオーバーフローしかないので、水質的にはカスミ池に似ているはずなのだが、実はまったく異なる。

  あまり汚れていないと思われるカスミ池と比べると、デンジ沼は驚くほど富栄養化が進んでいる。BODCODMnSSDO・クロロフィルa・全窒素・全リンの七つの項目で、もっとも高い値を示した。DO以外の値は、生活環境の保全に関する環境基準(湖沼)の値からも大きく逸脱している。なぜこれほどの違いが出たのだろうか。

  その答えはザリガニだと考えられる。デンジ沼は浅く、底には泥が堆積している。ザリガニにとってはこれが好条件で、この池からは今回非常に多数の固体が見つかっている。これらのザリガニが沼底を徘徊するため、沼は常にかき混ぜられており、その結果、本来沈殿しているはずの養分が巻き上げられ、沼全体の栄養度が上昇しているのである。

  他の生物では、ヒメガムシが特に多くみられた。水が淀んでいる為だと思われる。

 

W.がま池

  その名の通り、ガマが生えている池である。池底からは水草(チクゴスズメノヒエ)がびっしりと生えており、水生生物の良い住処になっている。すぐ背後は山になっていて、調査当日には池の近くでウサギも目撃された。山の生き物にとっても重要な水場なのかもしれない。ただ、この水草は外来種であり、生物多様性保全の観点からすれば、在来種に植え替えたほうがいいのかもしれない。

  水質分析では、他の池と比較して突出したところはなかった。メダカが多数確認されたほか、それを餌とするタイコウチや、このあたりでは珍しいコオイムシも見つかった。

 

 

 

 

X.メダカ池

  この池は今回調査したため池の中で、最も低い位置にある。よって、他の池の水が、多少なりとも流入している。すぐそばにカメ池という小さな池がある。今回この池は水質分析を行っていないが、水路が直結しているため、成分・生息動物はほとんどメダカ池と同じだと思われる。隣には水田があり、ここで水辺の生態系における水田の重要性を調べている。擬似的に天然の池を造るという目標から、場所によって深さにかなりの差が設けてあり、それによって生物層も大きく異なっている。

  メダカ池は、SSと電気伝導率がデンジ沼に次いで高いという結果が出た。SSがたかいのは、すぐ上にある砂防ダムからの濁った水の流入していて、流れがある影響もあるが、泥を沈殿させていたヒシを、ザリガニが根から切ってしまったというのも一因であろう。

  この池は小生物の量が非常に豊富である。とりわけ、ヌマエビは数え切れないほど捕獲された。池の中にマコモが密生しているところがあり、その根元では特に多くの個体が見つかったことから、水中の生物にとって、湖岸の植生がいかに重要であるか再認識した。コガタノゲンゴロウのような、珍しい昆虫も生息している。調査した5つの池の中で、唯一ヒメガムシが観察されなかったが、これは流れがあることに関係しているらしい。淀みが好きなヒメガムシにはお気に召さなかったようだ。

 

3.今後の課題と対応

2006年度の一部開校を目指し、九大のキャンパス移転事業は急ピッチで進むことが予想される。ここで今後の課題について述べたいと思う。

まずは各ため池のことだが、頭池の汚れの原因は、上から排水が流れてくるにもかかわらず、コンクリートで護岸されているため植物の進入が困難であり、自浄作用が働かないことだ。大雨のときに決壊しないよう強度を保つため、今後もそれを取り除くことはできそうにないが、コンクリート護岸の上を土で覆い、植物を根付かせることで、動植物の池への進出を促すことができれば、泥を沈殿させたり、水質を改善する助けとなるのではないだろうか。

富栄養化が最も進んでいるデンジ沼は、対応が難しい。原因はザリガニだが、これをすべて駆除し、かつその状態を保つことは不可能に近い。また、ザリガニを狙ってサギが飛来するなど、すでに新しいバランスが生まれつつあるともいえる。底干しして泥をさらえばある程度は窒素やリンは減少しそうだが、それで完全に良くなるかといえば、そう簡単にはいかないだろう。

全体としては、あまり水草が生えていないことが気になった。たくさんの水草が生えているガマ池は、水生昆虫にとっても、やはり住みやすい環境のようだ。ザリガニ害や多すぎる泥の体積が、水草が少ない原因だと思う。これも解決すべき課題の一つだろう。