里山とは何か(レクリエーション林としての活用)

              1AG02223E 農学部一年 吉川壮太

1.    里山って何でしょう?

「兎追いしかの山、小鮒釣りしかの川…」で始まる『ふるさと』は、今でも多くの人に歌い継がれ、日本の典型的な里山イメージとして定着しているといえる。この歌を聞くと、不思議と懐かしい想いがする人も少なくないのではないだろうか。わが国は森林面積が国土の637%を占める森林大国であるが、その内の25%以上を里山が占める(「里山の環境学」p44,45から引用)ということからも、里山と我々の関係の深さがうかがい知れるだろう。古くから日本人の生活の場として利用され、我々の心の拠り所とも言える里山であるが、そもそもどのような景観・地域を指す言葉なのだろうか。

もともと里山とは単に、奥山に対応する言葉として案出された言葉であるといわれている。研究分野や行政目的により様々な定義づけがなされているのだが、あえて言うのであれば、『日常生活および自給的な農業や伝統的な産業のため、地域住民が介入し、資源として利用し、撹乱することで維持されてきた森林を中心とした景観』、といったところだろう。(大住、2000)ここで注目すべき点は、里山の範囲には森林だけでなく、周囲の集落や耕地、ため池などが含まれるということである。

それでは具体的に、里山は我々にどのような恩恵を与えてくれてきたのであろうか。

一つに資源生産機能が挙げられる。里山に成立する樹木や森林環境が、木材や薪炭材、堆肥、きのこ栽培などに利用されている。

二つ目には防災機能。里山の森林は山崩れや洪水を防止し、水源涵養、水質浄化などの役割も持つ。また、巨視的に捕らえれば、都市微気候の緩和や、大気浄化の作用を持つともいわれている。

三つ目に人々に安らぎを与え、感性や想像力を涵養する機能。里山の豊かな自然や多様な生態系は、古来より和歌に詠まれたり、童謡に取り入れたりと我々の感受性を大いに刺激するものであった。また昨今のアウトドアブームのように、里山にリフレッシュを求める者も多い。さらに里山は自然教育の場としても優れているといえる。

このように里山は長い間、我々の生活の一部として無くてはならないものだった。まさしく、我々を精神的にも物質的にも支えている『ふるさと』なのである。

 

2.なんで今「里山」なんでしょう?

 そもそもなぜ最近、里山が何かと取り上げられるようになったのだろうか。それにはまず、里山が直面している危機的状況について説明しなければならない。

前述のように人々の生活と密着していた里山も、昭和30年代からの燃料革命や農業革命のため、薪炭や有機肥料の供給源としての機能を失ってきた。その結果、適度な下草刈りや間伐が行われなくなった里山は、鬱蒼とした暗い森へと変わってきた。また、その後、高度経済成長に入ると過疎化、担い手不足等が深刻化し、里山は維持管理されなくなり、ゴミ捨て場や開発のターゲットとなり急速に減少してきたのだ。一時的に里山は、人々に忘れられていたのかもしれない。

しかし近年、あまりにも急激な生活様式の変化や、価値観の変化に危機感を覚え、古きよき里山の暮らしを見つめなおしてみようとする人々が増加している。無理な開発や消費を続けて作り上げた都市の中には、自分の住むべき場所を見つけ出すことができなかった人も大勢いるのだ。これは高度経済成長に一段落し、都市に生活する人々に「自然に戻りたい」というゆとりが生まれたためであろう。

また、里山は物質循環モデルとしても脚光を浴びている。人々は雑木林で薪を伐り、落ち葉を掻き、牛馬の肥料となる下草を刈り取った。そして落ち葉や牛馬に踏ませた草を堆肥にし、薪を燃やしてできた灰までも肥料にして田畑を維持した。これらのプロセスは無駄を出さない「ゼロエミッション」の例として、今後の我々の生活に多大な影響力をもつ指針となりうることができ、このことも里山に注目が集まる一つの要因となっている。

このように、我々の中では着実に里山に対する関心が高まりつつある。里山保全を訴える声も非常に大きなものになっている。では、我々が具体的に里山を保全するには、どうすればいいのだろうか。ここで私は、里山の有益性を考えるひとつの方法として、レクリエーション林』を提言してみたいと思う。

 

31.遊山(ゆさん)の場’としての里山

人間が都市での生活に疲れて自然に戻ろうとする。これは、人間の本能的欲求からくる感情らしい。実際、里山での静かな音(林の中を駆け抜ける風の音、涼やかな渓流のせせらぎ、遠くから聞こえるカッコウの鳴き声…)は、我々の脳内の血流量を低下させ、リラックスさせる効果があるという。(山本、2000)また、スギやヒバ材のチップの香りが我々の生理的・心理的ストレスを軽減させ、生体を鎮静的な状態にするとの実験報告もある。(宮崎、2000)さらには、新芽の萌え出る春はツツジ・ヤマザクラ、初夏は若葉、秋は紅葉、冬枯れの雑木林など、季節季節で里山の風景が我々を楽しませてくれる。

このように、里山の存在は日本人の思索を深め、文学や音楽などの芸術を生み出すための感性・想像力を涵養する場として他に変えがたいものであるのだ。また、里山でのさまざまな生活を通して、次世代を担う子供たちに豊かな自然教育を行うことも可能である。各種教育機関と連携し、子供たちに自然と共に生きる英知や文化を継承することは、様々な環境問題を抱える現代には必要不可欠なものではないだろうか。

 

 

 

32. レクリエーション林の管理・維持

 31で里山のレクリエーション林利用の価値を考えてみたが、本章でそのための管理・維持方法などを挙げ、いくつかの実例を紹介したい。

 

@     里山保全の絶対条件

前述したように、里山は様々な機能を持っている。当然のことであるが、ある一つの機能を利用しようとするあまり、他の役割を壊すようなことは避けなければならない。また、里山は多様な生態系を育む、優れた地域である。人間の里山利用によって他の生物の住処や生活領域を脅かすことの無いよう、留意しなければならない。

 

A     森の配置

レクリエーション林を作るにあたって重要なのが森の配置である。レクリエーション林には多くの人が出入りし、撹乱が行われるわけであるから、里山の自然的な要素(多様な生物やその住処、土壌や水質など)が失われる危険がある。これを回避するためにも、レクリエーション林の周囲に緩衝林を配置することを提案する。緩衝林にはレクリエーション目的で遊びにきた人の出入りを禁じ、自然そのものの林を残すことで、レクリエーション林の必要以上の撹乱を防ぐクッションのような効果が望める。

 

B     水辺環境の整備

里山という言葉の範疇にはため池や小川などの水辺の景観が含まれるということは前に触れたが、それらを自然に近い形で残すことは、レクリエーション林利用だけでなく、里山の本来の姿を取り戻すためにも不可欠である。ため池・小川などはもともと、里地に生活する人々の生活用水や農業用水の供給源として機能していたが、レクリエーション利用にあたっては我々を楽しませてくれる多様な生き物の生活の場としての機能が望める。また、水辺にある葦原や湖畔林は水質浄化機能・土壌流失防止を持ち、里山を維持するにはなくてはならない。

 

C     間伐・下刈り

これはすべての里山管理に共通して言えることであるが、里山を維持するためには適度な間伐・下刈りが必要である。各植物は個体間で光や栄養をめぐる競争を繰り広げている。これらを和らげ、多種の樹木を維持するためにも、人の手による間伐・下刈りが重要となる。また、台風や雪害による倒壊の回避や、衰退木から進入する病虫害の予防も望める。もともと管理された里山というのは変化に富んでおり、低い林や高い林、明るい林や暗い林などが複雑に組み合わさって成立している。如何にそれを再現するかというのも、レクリエーション林利用において重要となる。(「里山における林床型と管理指針」参照)

 

D     案内人や利便施設の設置

里山を多くの人に開放する場合、インストラクターやトイレ、駐車場などの利便施設が必要となる。里山を、よりよい自然教育の場として利用するためにも、これらの設置や処理には細心の注意を払いたい。

 

『里山保全の実例』

 最近では、日本各地で里山保全が試みられている。保全方法もその規模もそれぞれであるが、唯一の絶対目標「里山を廃れさせてはならない。」は全て共通である。以下に市民・行政・地方自治体が実施している実例を挙げてみる。里山保全への道がひとつではないことがお分かり頂けるだろう。

 

        トトロのふるさと基金……埼玉県所沢市の南西部に位置する、狭山丘陵で実施されているナショナルトラスト方式の保護運動。狭山丘陵は1000種以上の高等植物や、200種以上の鳥類が生息する自然の宝庫であったが、高度経済成長に伴う開発の波に飲み込まれ、里山は急激に失われた。1990年に、映画「となりのトトロ」に影響を受けた人々によって里山の保護運動が始まり、寄付金を募ると、全国各地から1万1000人による、1億1000万円もの寄付が集まる。この基金を元に1991年には最初の「トトロの森」が誕生し、現在では地方自治体の援助もあってか3ヶ所の保護林を所有するまでになった。

 

        ふるさと自然ネットワーク……自然豊かな地域で、充実した時間を過ごしたいという国民のニーズにこたえるために行政が設定。身近な自然環境を保全活用し、いきものとふれあい、自然のなかで憩うことのできる場作りを推進している。具体的な事業は@ふるさといきものふれあいの里、Aふるさとふれあいの道、Bふるさとふれあい水辺、Cふるさと自然塾、Dふれあい・やすらぎ温泉地に分類され、全国31県、46ヶ所で実施。(環境省HP参照)

 

        エコツーリズム……長野県志賀高原では観光客を対象にし、地域の歴史、自然、文化をテーマとした各種イベントを実施。地域の特色ある自然を「資源」としてそれに触れ合うエコツーリズムは、観光産業の振興につながり、地域を活性化するものとして注目を浴びている。

 

.結論

 最近では温暖化や酸性雨など、様々な環境問題を耳にするようになった。それだけ市民の目が自然環境に向けられるようになり、危機感を覚える人が増えたということだろうが、我々日本人にはマクロの視野の環境問題を考える前にやらなければならないことがあるだろう。それこそが里山の保全である。地域の自然すら守れずに、我々に地球環境保護を訴える権利などないのではなかろうか。幸いにもここ数年間で何かと里山が取り上げられ、全国的にも里山の見直しが図られている。もう一度里山とのいい関係を取り戻し、その恩恵を十二分に享受するためにも、我々は里山を生活の一部として取り入れなければならない。

 里山保全は、決して里地に住む人々だけの問題ではない。むしろ里山から離れ、都市で生活する人々こそが、里山に目を向けるべきなのである。里山は生活に潤いを求める人々が帰ることのできる、唯一無二のふるさとなのだから。

 

 

 

                                                                                    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

引用・参考文献

 

重松敏則 (1991) 「市民による里山の保全・管理」信山社出版

日本林業技術協会(編)(2000)「里山を考える101のヒント」東京書籍

大住克博 (2000) お爺さんが再び山へ芝刈りにいく日 日本林業技術協会(編)「里山を考える101のヒント」p14-15東京書籍

山本徳司 (2000) 里山に音を感じて 日本林業技術協会(編)「里山を考える101のヒント」p76-77東京書籍

宮崎良文 (2000) 『心地よい香り』 日本林業技術協会(編)―里山を考える101のヒント」p78-79東京書籍

武内和彦・鷲谷いづみ・恒川篤史 (2001)「里山の環境学」東京大学出版会

環境庁 (編)「平成14年版 環境白書」ぎょうせい

愛知県 (1999)「豊かな里山づくりを目指して ‐里山利活用検討会議報告書‐」

        http://www.pref.aichi.jp/kankyo/shizen/satoyama/satoyama.pdf