ホタル保護入門

                       1AG02142E  長田 真理子 

1.はじめに

 私の地元は米どころだけれど、私の家は農家ではない。私の家は農家ではないけれど、まわりには田んぼがある。田んぼではよく遊んだけれど、今では人家が建っている。人家は増えたけれど、まだまだ田舎である。そして、減ってはいるものの、昔からホタルが棲んでいる。

 幼いころはよく蛍狩りを楽しんだ。私にとってホタルは、身近で、愛着のある生き物である。日本人には、このようにホタルを愛する人が多い。ホタルの放つ幽玄な光は、いつの時代も人々を魅了した。その証拠に、多くの詩歌や童謡のなかに詠みこまれている。

 矢原注:ここでは、具体的な引用がほしい。古典文学で筆頭にあがるのは、源氏物語の「蛍」の章でしょう。源氏が、隠し持った蛍を暗い部屋で放ち、玉鬘の美貌が浮かび上がるシーンは有名。和歌では、以下のような作品があります。気に入ったものを引用してはどうでしょうか。

恋すれば燃ゆるほたるも鳴く蝉も 我が身のほかの物とやは見る

千載和歌集813番、源雅頼恋しているので、燃える蛍も鳴く蝉も、さながら私自身のように思われる。

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夕されば 蛍よりけに燃ゆれども 光見ねばや人のつれなき

古今集562番、紀友則。けに(異に):多くは、この和歌のように「よりけに」と用いる。いっそうはなはだしいようす。いつもとは違っているようす。

夕方になると、蛍よりもなお恋心は燃える。でも、あの人には光が見えないのか、つれなくされているんだ。

 

沢水に空なる星の映るかと 見ゆるは夜半の蛍なりけり

後拾遺和歌集217番、藤原良経水面に星が映っているかと思ったけど、よく見たら蛍
だった。きれいな詩です。おそらく蛍は水草にとまって、じっとしていたのでしょう。

 

ゆく蛍 雲の上までいぬべくは 秋風吹くと雁に告げこせ

伊勢物語45段、後撰和歌集252番、在原業平いぬべく:ゆくのであれば。告げこせ:告げて下さい。

空高くまで飛ぶ蛍よ、雲の上までゆくのであれば、「地上ではもう秋風が吹きはじため」と、秋とともに北からやってくるはずの雁に告げて欲しい。

 

物思へば 沢の蛍もわが身より あくがれいづる魂かとぞ見る

和泉式部集、後拾遺和歌集1163番、和泉式部あくがれ:いる場所を離れてさまよい出る。魂:たま。

詞書きには、「男から忘れられた頃、貴船神社(京都市左京区)に参拝したら、御手洗河に蛍が飛びかっているのを見て」と書かれています。

物思いをしているので、沢に飛ぶホタルも、我が身から迷い出た魂のように見える。

 

 最近、そのホタルが減ってきた。そのため、いま全国でホタル保護が盛んである。環境保全、自然保護ブームの波に、乗り遅れるなといわんばかりである。自分のことしか見えていなかった時代を経て、周りのことに気が回るようになったのは、喜ばしい進歩である。<しかし私たちには、まだまだ、知らないことが多いようである。>何について知らないことなのか、説明が必要です。

 

 九州大学の新キャンパスでは、生物多様性保全ゾーンにゲンジボタルの生息が確認された。また、大学周辺の水田にはヘイケボタルが棲みついている。しかし、九大移転にともなう多量の人口流入によって、元岡地区の環境は大きく変化するだろう。適切な保全対策がとられなければ、せっかく棲みついたホタルが姿を消してしまう可能性は、十二分にある。<この現実問題にどう対処すべきか。>→どうすればホタルが棲む環境を保っていけるだろうか。<ホタル保護のあり方を確認しつつ、考えていく。>→もう少し具体的に。

 

2.知っ得、ホタル

 ホタルを愛する人は多いが、ホタルの生態について知っている人は意外に少ない。ホタルは何を食べるのか。どのようなところに棲んでいるのか。どうやって光るのか。それらのこと

を知らなければ、ホタルを守ることはできない。なぜなら、ホタル保護のためには、彼らが生活史を全うし、継続的に子孫を残していける環境を復元、回復する必要があるからだ。

 では,まずその生活史から見ていこう。

 

2-1 ホタルの生活史

 日本を代表するホタルといえば、ゲンジボタルである。実際、保護の対象とされるのはほとんどがゲンジボタルである。そこで、その生活史について、世代別にまとめてみる。

 交尾は、川岸の草むらで行われ、メスはその後2〜3日で産卵を終える(森,1991)。卵が産み付けられるのは、主に川に突き出た岩の苔や、<樹木の下面→よくわからない>の苔である。ここだと卵の乾燥が防げ、孵化後、幼虫がすぐに水中に落ちることができる。

 卵の大きさは直径約0.5mmで、1回の産卵数は500~1000個である(三石,1990)<・・引用はここでよいか?>。青白く光るその姿は、まるで真珠のようだ。

幼虫

 産卵から約1ヶ月すると、卵は孵化する。ゲンジボタルは9ヶ月〜1年間の幼虫期を水中で過ごすが、その間に6〜7回の脱皮を繰り返し、体長20〜30mmまで成長する(森,1991)。この時期、ホタルは流水性の巻貝であるカワニナを食べる。しかし彼らの食事法は変わっていて、ガツガツかじったりしない。

まず幼虫は、自分の体の大きさにあったカワニナの殻に頭を突っ込み、麻酔液を注入して麻痺させる。その後、口から消化液を分泌してカワニナの体を溶かし、1〜2日かけてじっくり吸収する(大場,1991)。その間呼吸が心配されるが、彼らは腹部にある気管鰓(きかんさい)から水中の酸素を取り込んでいるので、それがカワニナの殻の外に出ていれば窒息することはない。(遊麻,2000

また、幼虫も刺激を受けると発光する(三石,1990)。これは天敵に対する防御だと考えられるている。三石(1990)は幼虫の天敵としてカワムツ、ドンコ、ヨシノボリ、ヤゴ、マゴタロウムシなどをあげている。ただし、遊麻(2000)、大場氏(1991)は、これらの動物は、幼虫が分泌腺から放つ異臭を嫌い、幼虫を食べることはないと述べている。

さなぎ

 春季、雨の夜に多くの幼虫が発光しながら岸辺に這い上がって、適当な場所を選び、土に潜り土繭を造る。雨の日を選ぶ理由は、上陸時の急激な環境変化を回避するためであるといわれている(三石,1990)。また、みな一斉に上陸してくるので、日長、水温、気温など、上陸のタイミングを決める要因があることは確かだが、それが何かははっきりとしたことはわかっていない(遊麻,2000)。幼虫は青白く発光しながら気にいった場所で土に潜り、土繭を造り、土繭の中で前蛹となり、脱皮して蛹になる。この間に気管鰓が消失し、かわりに気門が発達する。また、それまでは幼虫のように背面で光っていたのが、成虫のように腹部で強く光るようになる。しかし、明滅はしない(三石,1990)。 

成虫

 ゲンジボタルの成虫の発生期は5月〜7月で、標高や緯度によって異なる(大場,1991)。発生期間は約1ヶ月間であるが、発生パターンは山型で、発生数が多いのは約1週間 であり、ピークは2〜3日である(森、1991)。

 成虫の生理的寿命は2〜3週間だが、実際の寿命はオスで約3日、メスで約6日である。これは、自然の中では風雨にたたかれて命を落としたり、クモに食べられたり、増水した川に流されたりするからである。<文章を補うこと>このにおいと味のため、カケスなどの鳥に食べさせると、吐き出してしまう(遊麻,2000)。

 体長はオス約15o、メス約18oであるが、地域差、個体差が大きい(森,1991)。また、オスは腹部が6節あり、第5節と6節が発光部であるが、メスは腹部が7節あり、発光部は第5節だけである(三石,1990)。オスは群れて同調発光するが、メスは不規則に光る(大場,1991)。

 成虫になってからのホタルは、水分をとるだけで何も食べない。口器がブラシのようになっており、これで夜露をなめるのだ。また、ゲンジボタルは夜行性であり、昼間は樹木や草の葉の裏で休んでいて、暗くなると光りながら飛び回る(三石,1990)。そうして相手を見つけて交尾をする。

 

 以上がホタルの生活史である。ホタルが繁栄するためには、このような生活史の各段階を送れる環境が必要となる。必要な要素をピックアップしてみる。<表にまとめる方が良い>

  成虫:暗い空間(光交信を有効に行うため)

     川面や川岸のオープンランド(飛翔空間)

     草むら、樹木(休息場所、交尾するところ)

  卵 :水面直上または水際のコケ(産卵場所)

  幼虫:カワニナ(餌)➾珪藻類(カワニナの餌)

     浮石(隠れ場所)

  蛹 :土の土手(土繭を作るため)

 このような条件の1つでも欠けていると、ホタルは生活しづらくなる。これらの条件をよく見ると、<自然の水辺環境・・水辺には池や湖のほとり、大型河川の岸なども含まれる。もっと限定する>のイメージと重なる。ホタルを守るためには、まずこのような環境を整えてやる必要があるといえる。

 

2-2 ホタルの発光

 ホタルについて一番興味深いのは、発光行動である。一般に知られているのは成虫の発光であるが、卵、幼虫、蛹の間も発光することは前述のとおりである。しかし、それらは成虫のように発達した器官を持っておらず、その意義については、防御のためだろうといわれるが、はっきりした証拠はない。

 そこでここでは、成虫の発光に注目してみていこう。

 

発光の仕組み

 ご存知のようにホタルはお尻を光らせる。そこに発光器を持っているからだ。発光器は

発光細胞、反射細胞、神経、気管から成り立っている。(図)簡単にいうと発光細胞で生じた光を反射細胞で反射して外部に放出するのだ。

 発光細胞ではどのようにして光を生じるのか。その化学反応については「生物発光と科学発光」(鈴木・後藤,1989)に詳しいので、それを参考にまとめてみる。

 

@ルシフェラーゼとマグネシウムイオンの存在下で、ルシフェリンとATPが結合して、ルシフェリン−AMPとピロリン酸を生成する。

 Aルシフェラーゼ存在下で、ルシフェリン−AMPと酸素が反応して、ジオキセタンを生成する。

Bジオキセタンから二酸化炭素が解離して、オキシルシフェリンが生成される。

Cこのオキシルシフェリンが過剰のエネルギーを放出するとき、光を出す。

 Dオキシルシフェリンはその後、二トリルに分解し、これとシステインが

共存するとルシフェリンが再生される。

 

 この化学反応は生物発光量子収率の非常に高い生化学的酸化反応の一種で、ほとんど熱を伴わない。(hotaru)なお明滅については、発光過程で生成されてくるある物質が吸収された酸素に対して強い阻害作用を持ち、一時的に発光が抑制され、続いての反応で酸素が再び活性を取り戻したとき、次の発光反応が起こると考えられている(三石,1990)。

 

 私たちが「きれいだなあ」とホタルを眺めているとき、彼らの体内ではこのように複雑な反応がおこっていたのだ。この反応の調節によってホタルは発光パターンを変える。最近では、威嚇、防衛、雌-雌間のコミュニケーション、雌-雄間のコミュニケーションなど多様な発光シグナルが確認されている。(大場,1999)

 

配偶行動

発光能力の一番の利用法は、やはり雌雄のコミュニケーションである。短い寿命の間になんとか相手をみつけようと、彼らは一生懸命だ。具体的にはどのようなやり取りがなされているのだろうか。タイプ別にみてみよう。

 

@ヒメボタル型

日没後、オスが規則的に閃光を放ち始めると、メスは草の上で約3秒に1回瞬く誘引信号を放つ。オスの接近とともに、メスは一定のタイミングで応答するように発光し、交尾にいたる。ヒメボタルには、オスの体長が約10oの大型系統と約6oの小型系統が知られている。両者は発光間隔も異なり、大型系統のオスは1秒に1回、小型系統のオスは0.5秒に1回閃光を放つ。また、メスは、下翅が退化していて飛ぶことができない。(hiroshima)これは飛翔することをやめて翅の資源を卵にあてたと考えられる(大場,1999)。

Aヘイケボタル型

日没後、オスは1秒光って2秒休むパターンの発光を繰り返しながら飛翔する。一方メスは、草の上で1秒光って4〜5秒休むパターンでオスを誘引する。オスはメスまで5〜10cmの距離に着地すると、瞬くような発光をして近づき、メスも発光間隔が短くなり(求愛・種類の確認)、交尾にいたる。(tofre)

雌雄間の発光のタイミングは不規則である(大場,1999)。

Bゲンジボタル型

 日没後、メスが草の上で発光を始め、やがて多くのオスが飛翔しながら同調発光する。メスが不規則な発光をしていると、オスが近づいてくる。その際、オスはメスの周辺で歩行したり、静止したりしながらさまざまな光シグナルで求愛する(大場,1999)。

 オスの同調発光に注目すると、ゲンジボタルには3つの型が存在して、静岡-長野-新潟に沿って発光間隔約3秒の中間型が、それを境に西側に約2秒の西日本型、東側に約4秒の東日本型が分布している(大場,1991)。

 

 このように、夜行性のホタルは光による、それぞれ独自のコミュニケーションシステムを持っている。しかし、中には昼行性のホタルもいる。元岡地区にはオオオバボタルが生息しているが、このホタルは昼行性であり、発光しない。では、彼らはどのように求愛するのだろうか。

 

 Cオバボタル型

 陸生のホタルで、昼行性であり、成虫はにおい(性フェロモン)によるコミュニケーションを行う。幼虫期は発光するが、成虫期にはほとんど発光しない。また、生息地が限定されることによって、オスとメスが出会う機会が高められている(大場,1991)。

 

 以上、ここでは4パターンのみを紹介したが、ホタルのコミュニケーションシステムは、@〜BとCの中間型2パターンが加わり、大きく6パターンに分類できる。こうしたホタルのコミュニケーションシステムは外部形態によく反映されており、夜行種では光シグナルを感受する複眼が、昼行種ではにおいシグナルを感受する触角が大きく発達している(大場,1999)。

 いずれにせよ、この雌雄のコミュニケーションは、ホタルが子孫を残す上で欠かせない行為である。私たちが守ろうとしているゲンジボタルやヘイケボタルは、夜行種で光シグナルを利用する。しかし、街灯などで夜が明るくなってしまうと、発光行動が抑制、撹乱されてしまう。(wakaba)オスとメスの「会話」が成り立たなければ、カップルは成立しない。つまり、ホタルの存続は不可能になる。彼らの「恋路」を邪魔しないためには、「暗い夜道」を残す配慮が必要である。

 

3.やっとこ、ホタル保護

 ホタルを守るためには、ホタルについて知る必要がある。そこで、2章ではホタルの生態について紹介した。実際、ホタルに関する多くの研究は、「ホタルを守りたい」という環境保全的な動機からはじまった(遊麻,2000)。また、各地で組織的な運動がはじまったのは、高度経済成長期、ホタルが絶滅寸前に至ったころである(村上,1991)。

 しかし、当時の保護運動には問題があった。現在にも残るこの問題に触れないわけにはいかない。

<移入・放流>

 村上(1991)が編集した「ホタル愛護運動史」によると、1932年から1989年までの 各地域の運動内容にみられるのが、ホタルの幼虫とカワニナの「飼育」、「増殖」、「放流」、「移入」である。ホタル保護の目的が“ホタルをその土地に取り戻す”ことであったために、このような事態が起こったのだ。確かに、ホタルのいなくなったところでホタルを増やそうと思ったら、この方法が手っ取り早く、早期に目に見える成果がでるかもしれない。

しかし、長期的に見るとどうだろう。そもそもホタルは移動範囲が狭く、ゲンジボタルは3つの型に分化しているし、ヒメボタルにも2つの型が知られている。さらに詳しく調べれば、地域ごとに違った系統が分かれているかもしれない。したがって、他の地域の系統を放流をしても、その地域に定着するとは限らない。このような移入における問題点について、宮下(1991)は次の6項目をあげている。

  @土着の固有種を滅ぼす危険性

     移入した系統が、土着の系統と置き換わってしまう危険性がある。置き換わった移入系統は、新しい環境で生き続けるための耐性をしばしば備えていないので、何らかの問題に直面すれば、この集団も滅びてしまう。 

  A生態系のバランスを崩す危険性

     同種のホタルであっても、食性、繁殖力、耐性などの違いは、カワニナとの食物連鎖の関係を崩し、その影響は他の生物にも波及し、生態系のバランスも崩れる。

  Bほかの動植物を持ち込む危険性

     カワニナと一緒に、ヒル、ミズムシ、ユスリカ、カゲロウ、トビケラ等が運ばれてきた事例がある。ある環境にそれまで存在しなかった生物が入ると大繁殖する場合がある。

  C人や動物の病気を持ち込む危険性

     ゲンジボタルは病気の媒介昆虫ではないが、カワニナは肺吸虫や横川吸虫の、タニシは肝吸虫の中間宿主である。

  D学術的な意義の消失

     ゲンジボタルの明滅間隔の違いなど、地方系統の確立過程を推定することによって、地史的な事実や過去の気候変化などの解明に役立ち得る。しかし、移入によって本来の分布や地方系統の特徴が失われれば、このような研究を行うことは困難になる。

  E人類への貢献と遺伝子源としての価値の減少

     発光物質の生化学分野での利用。地域に特有な差異の意味。→文章にする。   

このような問題点を指摘したうえで、宮下(1991)は「本来の生態系から切り離されたホタルはペットに過ぎない。」と述べている。

 また、環境教育としてのホタルの飼育、放流について、遊麻(2000)は子供たちに「“飼えばなんとかなる、放流すれば殖やせる”という傲慢さが身についてしまうのではないか」と指摘する。確かに、環境の<循環性→抽象的でわかりにくい>を見落とし、自然を消費的なものと錯覚してしまう恐れがあると思う。

 放流、移入から抜け出すには、まず観点を「ホタル」から「ホタルを取り巻く環境」に広げていく必要がある。この点で、今日は、ホタル保護観の転換期にあるのだ(杉山,1992)。

 

<ホタルの位置づけ>

 ホタル保護といいながら、視点はホタル周辺に置かなければならない。まるで浮き絵を見るような感覚である。焦点を少し遠くにずらしてみないと、見たいものは見えてこない。

 私たちが目指すのは、どういうものであったか。しつこいようだが、ホタルの棲みよい環境であり、それは小川や水田の本来の姿である。

                                          つづく・・・・・m(_ _)m