竹とともに生きる 〜竹のパワーの利用〜

                      1TE01019W  里崎 加奈

 

1 はじめに

物干し竿、竹垣、旗竿、熊手、たけぼうき、竹はしご、線路の遮断機、茶せん、水筒、杓子、箸、竹串、籠、弓矢、尺八、物差し、竹馬、竹とんぼ・・・。日本人は、昔から驚くほど様々な用途に竹を利用してきた。先人たちが、竹の持つ特性を自然に理解し、生活の中で巧みに利用してきたということは実に興味深い。また、普段何気なく使っている漢字にも、管、竿、筒、箸、籠、(ざる)(すだれ)箪笥(たんす)(ほうき)(いかだ)、笛など、竹に縁のあることを意味する『竹冠』の漢字がよく見られる。このように私たちは、これまで竹とともに暮らし、その恩恵を多く預かってきた。正月の門松や、地鎮祭のなど、祝い事やよろこび事にも、竹は欠かせない縁起物とされている。また、「竹取物語」のように竹を神聖視した説話が多く残っているのも、おそらく竹は人々にとって大切で特別な存在だったためであろう。

ところが、そんな竹林が、たけのこの収穫量の減少や、プラスチックなど、竹材の代替品の普及といった様々な理由から、あまり手入れをされなくなってしまい、その結果、異常繁殖という危機に陥っている(図1)。現在の九大移転地でも、竹林の拡大によってコナラ・ナラガシワなどが優先する落葉広葉樹林や、ヤマツツジ・シャシャンポなどが生える尾根の明るい林などが消失するといった大きな問題が生じている。これらを守っていくには、竹の侵入を阻止し、徹底的に管理していくことが必要だ。そこで、「番傘をさして通れるくらい」がちょうどよい竹林密度だといわれるように、竹林管理のためには竹の伐採が不可欠となってくる。竹を、他の樹林を侵食する悪者だと考えるのではなく、伐採した竹を、私たちの手で利用し、その偉大な効果を生活に役立ててはどうだろうか。

今では人々の竹林に対する畏敬の念はほとんど消えつつあり、多岐に利用していた竹製品も、ざっと自分のまわりを見渡してみても、見当たらないほど、私たちの生活から遠く離れていっているように感じる。代替品があるからそっちを使うのではなく、もう一度竹のよさを見直してみるべきである。実際、今日ではそのような動きがあちこちで見られる。最近では、特に竹炭が注目されていて、一般の雑誌やテレビなどで幅広く取り上げられている。ここでは、竹の利用、特に竹炭に焦点を当てつつ、実際の九大での有効な利用法を考えてみようと思う。

 

 

2 竹のパワー

 

 2−1.竹の優れた性質とその利用

 弁当のおにぎりが竹の皮で包まれているのを見たことがないだろうか。これはただ大きさがちょうど良いなどの理由でありあわせで竹の皮が使われているというわけではない。竹の稈や皮、笹の葉に含まれる珪酸や、葉面から発散するテルペンと呼ばれる物質に、抗菌性・抗酸化性にすぐれた成分であるポリフェノールが含まれるため、殺菌作用・防腐作用を発揮するという科学的根拠があるのだ。また、前に述べた昔ながらの利用法のほかにも、建材として、寄せ木細工のようにして床や襖の枠材を作ることもある。竹は繊維がまっすぐであるために、反りが極めて少なく、素肌への感触も気持ちのいいものである。さらに燻製処理を施せば、害虫に対しても強くなる。その他にも、竹はパルプの原料としても使われていた。現在でも中国では竹を使って紙を作っているとのことだ。このように、竹の特性を活かした利用は、たいへん優れたものである。最近特に脚光を浴びているのが、竹炭である。次にこの竹炭について、具体的にみていこうと思う。

 

 2−2.竹炭とその吸着効果

竹炭とは、竹を炭にしたもので、体積は焼く前の1/3になるが、この孔の横断面は、微細なパイプを束ねたような構造になっており、その内部表面積は、竹炭1gあたり(大人の手の指先ぐらいのかけら)300u(25メートルプールやテニスコート一面分の広さ)にも相当する(図2・表1)。竹炭(黒炭)は、低温で炭化されてゆっくりと冷やされるため多孔質となるので、高温で炭化され、炭窯の外で急冷されて組織がしまった備長炭(白炭)の10倍以上の非常に優れた吸着力をもつ(BET法とよばれる吸着力の分析法によると備長炭(ウバメガシ白炭)が2〜5平方メートルであるのに対して、約800℃の高温で焼いた竹炭は50〜60平方メートルであることがわかっている)。竹炭だけでなく、木炭など他の炭にも言えることだが、吸着作用は、分子間引力によって物理的に表面に吸着されるだけではない。炭における無数の孔は微生物の住みかとなり、この微生物によって有害な化学物質などを吸着し、分解するのである。なんという神秘的なはたらきだろう、指先ぐらいの竹炭のかけらの中では25メートルプールの広さに微生物が住み、脱臭・脱色・水質浄化・空気浄化劇を繰り広げているのである。

このような吸着効果に注目して、最近では室内の消臭・浄化に炭が利用されている。竹炭をこの目的で使用する場合は、1坪(約3.3u)あたり3〜4キロを目安に置くとよい。ペットの臭いや、タバコの煙などにかぎらず、ホルムアルデヒドに代表される住宅における化学物質をも除去することができ、空気清浄機などの機会に頼ることよりも省エネ効果が期待される。

九大でまず取り組んでみたいのが、各池や、用水路での水質浄化である。全国でも、炭によるさまざまな水質浄化の報告がある。例えば、木炭の例ではあるが、東京多摩町の蜂谷川(都民の水がめである奥多摩湖に注ぐ)では、汚濁が進んでいるため、川を6メートル四方にわたって金網で覆い、その下に木炭をぎっしり積み重ねるといった浄化装置を川の2ヶ所に設けた。都水道局の担当者によると「湖でアオコなどが増える原因となる窒素やリンを木炭が効率良く吸収してくれるので、うまくいけば汚濁物質を5分の1以下に減らせ、汚濁の原因をもとから断つことができる。」と期待をよせているとのことだ。また、別の例では、多摩川の支流のある町では汚水のため悪臭と蚊の異常発生に悩まされていたが、地元の主婦たちが立ち上がり、大量の木炭(トン単位)を生活排水路にしずめたところ、次第に悪臭が消え、2、3年後にはウグイが産卵するようになり、夏にはホタルが群れ飛ぶようになったということだ。(檜山・1999より)この例からも、地元の主婦たちの手でここまで水質浄化が成功したということなのだから、九大においても私たちの手で各池や用水路の水質を管理することが可能なのではないだろうか。

 

2−3.竹炭とその灰分(ミネラル)の効果

化学的な性質においては、良質のミネラル、とりわけ珪酸・カリウムの含有量が多いことも特徴である(表2)。竹のミネラルは、竹の化学成分が炭化するときに熱分解され、酸化物または炭酸塩として約3倍にまで凝縮され、組織中に分布する。しかも水に溶けやすい形で含まれているので、炭を粉状にして植物の根元に施用すると、植物にとって貴重なミネラル補給源となり、そして農薬や化学肥料の多用によってpH値が低くなっている土壌の酸性度の矯正という土壌改良効果がある。炭は、1986年に改礼354号で『地力増進法』の「土壌改良資材」に認定されていることからも、ミネラル効果の他にも大きな効果を示すことがうかがえる。土壌に炭を砕いて入れると、竹炭の多数の孔によって土の中の通気性、透水性、保水性が向上する。また、孔の表面における微生物の着生によって、土中の有害成分(農薬や化学肥料など)が分解され、また、有機物を分解してこれを栄養分として増殖し、作物が育ちやすい土壌環境をつくることができる。

また、もっと身近な用途においても、このミネラル効果は発揮される。水に溶けやすい、つまり人間の体内へ吸収されやすいかたちでミネラルが含まれているため、様々なところで利用されるのだ。例えば、炭を炊飯器に入れてご飯を炊いたり、水道水に入れておいたりすると、おいしくなるのは、このミネラル分によるものだ。一般に日本人がおいしいとかんじるのはph8.2〜8.5の水だといわれている。水道水はph7の中性だが、炭を入れておくとph8〜8.5の弱アルカリせいのミネラルウォーターとなるのである。水道水は31時間汲み置きすれば残留塩素量は半分になるが、炭を入れておけば同じ時間で塩素を完全に取り除くことができるのだという。これは吸着作用によるもので、発ガン性物質といわれるトリハロメタンも分解されて無害になるとのことだ。さらに天然のミネラル成分が無数の孔から溶け出すとあれば、このすばらしい炭の恩恵を受けないわけにはいかないだろう。そこで次にこの竹炭の作り方についてみていく。

 

3 竹炭をつくる

 

炭焼きというと、なかなか初心者ではできないという印象があるが、特別な設備や技術がなくても、竹炭ならば、思うより簡単に焼ける。竹炭は木炭のように炭材に芯がなく、空洞になっていて、しかも暑さが1cm前後と薄く、それだけ断面積も狭いので熱分解が効率よく行われるためである。木炭はまともに焼けるようになるまで10年といわれるのに対して、竹炭は、初心者でも2〜3ヶ月で焼けるようになるといわれている。

 まず、タン材用には4年生以上の竹がよいとされている。竹の生長は5年で止まるといわれているが、3年未満の若竹は含水率が高く、『割れ』やすいので、炭焼きには向かないためである。節の部分が黒ずみ始めたもの、または根元に近い部分の の太さと 丈全体の中央部に位置する の太さがほぼ同じくらいに生長したものが、だいたい4年生以上の目安とされている。伐採後は、窯入れ時の適正含水率15〜20%となるように、約6ヶ月間自然乾燥をおこなう。次にいよいよ窯入れだが、ここでは最も簡単な炭焼き法といわれる「伏せ焼き法」を紹介する。これは地べたに穴を掘り、直に炭材を積み上げて焼く方法である。

 まず、湿気や石の多い場所、強風の吹きぬける場所を避けて、間口1m、奥行き2m、深さ20〜30cmほどの穴を掘る(@)。焚き口をブロックでつくり、煙突側を整え、曲がりつきの煙突を用意する。ロストル(火格子)の代わりに丸竹か棒切れを縦方向に2列に並べた後、肉厚の薄いものや径の細いものは上部と下部に、厚いものは中間に、竹材を積み上げる(A・B・C)。枯れ草・枯れ葉・小枝・ワラなどを竹材の上にたっぷりと盛る(D)。その上を古いトタンいたなどで覆い、竹材が土に触れないようにして、焚き口を除く全体を土で覆う(E)。焚き口に燃料を入れて完全に着火し、焚き口を少しずつ閉めて炭化させる(F)。煙の色が青くなり、さらに透明になってきたら焚き口をふさぎ、30分後には煙突口を閉じる(H)。冷却してから土を取り除き、トタン板をはがし、できた炭を取り出す(I)。この方法を用いて2人で焼く場合、火入れするまで約2時間、着火後、炭だしまでは炭材の量にもよるが、約8〜10時間である。(『竹炭・竹酢液の作り方と使い方』より)

 

4 結論

 

 九大移転地において、竹林の拡大の問題についてずいぶん考えてきたが、その解決策、利用となると、なかなかよい案がでてこなかった。一方、竹は自然を破壊するという悪のイメージにとらわれがちであったように思う。ここでは、数多くある竹のよさを見直し、改めて竹の恩恵を受けるための具体的な方法を考えることができた。竹炭をつくるというと、とても素人にはできないのではないかというイメージがあったが、よく調べてみると、意外にもそれは偏見だったようだ。毎年、竹林の拡大を防ぎ、竹と共生していくために継続して竹を収穫し、しかもそれを豊かな財産として、私たちの手で利用していくべきだと思う。

 

 

参考資料

『竹炭・竹酢液の作り方と使い方』岸本定吉監修・池嶋庸元著 農文協

『炭』岸本定吉著 創森社

『炭の秘密』檜山有著 夏目書房

エコロジーガイド 『里山の自然』田端英雄編著 保育者