法面のあり方と今後の課題 

工学部地球環境工学科 永山浩二

1.はじめに

 

普段、私たちが生活していくために必要不可欠である自動車。どこへ行くにも自動車がなければ、不便な時代だと言える。しかし、そうした便利さの中で、忘れてはならないのは道路があるからこそ、どこへでも行けるのだということである。これら道路によって私たちは便利さを得る一方、道路を造ることによって、元の環境を大きく変え、私たち人間だけでなく、動植物へも深刻な悪影響を与えている。法面(のりめん)は環境を変える要因の一例だと言える。

ではいったい法面とはどんなものなのか。大きく分けて法面には山を削ってできる切土法面と削った土を盛ることでできる盛土法面とがあり、それは山間地の高速道路などでの道路脇でよく目にするような人工的に造られた斜面のことを指す。法面は主に道路、住宅地などの開発の際、森林を伐開することによって出現することが多く、元岡の九州大学新キャンパス予定地では土地利用面積の約7.6%(20.9ha)を法面が占める計画になっている。これは福岡ドーム約15個分に相当し意外に広大ものであるということがわかるかと思う。

近年、その法面を生物多様性のある緑地にして行こうと言う動きが注目されている。法面の出現による周辺の環境の変化によって生態系が攪乱される恐れがあり、その心配を和らげる方法として以前とは違う緑化方法で法面をできる限り元の地域の生態系に近い生物多様性豊かなものへ緑化・復元をして行けば良いのではないかと言う趣旨のものである。

本レポートでは、法面(特に切土法面)が生物多様性のある法面の緑化方法、緑化の課題、そして法面の生物多様性について探ってみようと思う(盛土法面については、森林移植で説明済み)

 

2.  現在までの緑化(中野裕司@、郷土種その2)

 

 もともと法面の緑化は安価で効率的な法面防災、侵食防止技術のひとつとして発達してきた。時代の変化と共に緑化の工法も緑化に利用された植物も変化してきた。初期はただ単に発芽、成長の速い外来牧草の種子を法面に吹き付けるものであったが、徐々に周囲の景観、自然環境に配慮したものにはなっていったが、それも十分なものでなく生物多様性という概念、景観、生物群集や生態系,種や種内の遺伝的な多様性すべてを含む多様性はあまり意識されていなかった。ヤマハギ、イタチハギといったハギ類の単純な植生が全国に出現してしまうといった問題や、法面の緑化などで用いたシナダレスズメガヤ、オニウシノケグサ、ニセアカシア、イタチハギといった植物が帰化植物として生態系を攪乱するという危惧、また緑化地域に自生している同じ植物でも遺伝子レベルで違う対立遺伝子の持込みによるその地域固有の遺伝的特性が失われたりすることから生物多様性が意識されだす。こうした問題のことを郷土種問題という。

 

3.生物多様性豊かな緑化の課題

 

 このような郷土種問題から日本緑化工学会では、よそからの移入種を一切使わない地域から移入種を管理しながら利用する地域まで四段階の保全レベルに分け、地域ごとにどのレベルにするか決めるよう提言をしている。(郷土種その2、中野裕司@)

@          遺伝子構成保護地域

 遺伝子の攪乱を阻止するレベル。緑化による特定の対立遺伝子頻度の変化を避けるため移入種の導入は一切行わない。対象となるのは、隔離された人間の立ち入りのほとんどない場所である。例えば、原生自然環境保全地域、森林生態系保護地域、天然記念物がそれにあたる。 

A          系統保全地域

 移入種・侵入植物を制限・阻止するレベル。緑化にあたって、その地域に新たな対立遺伝子を持ち込まないように地域に自生する系統を用いた緑化を行う。対象になるのは、隔離されたハビタットであり、具体的には島嶼(とうしょ)、高山、河川、湿地に加えて自然の保護を図る地域である。地域の広がりについてはそれぞれの植物の遺伝子流動の範囲とする。例えば自然公園の特別保護地区、自然環境保全地域、また里山もふさわしいだろう。

B          種保全地域

 緑化には、在来の自生種(外国産も含む)を用い、その系統は問わない。交雑によって作用した繁殖力を持たない緑化植物を使用することも認められる。                                                             

C          移入種管理地域

 植栽した植物が逸出の危険がないように管理しながら移入種を植栽できる地域をいう。

 

 B、Cの地域に関しては、現在の法面緑化工法で行える範囲のものであるが、@、Aに関しては、まだまだどのように緑化していけばいいのか具体的な方法は見えてこない。だだ、大まかな緑化方法としては以下の方法が考えられる。(郷土種その2)

1)  周囲からの植物の自然な侵入にまかせる

最低限の侵食防災処置をし、植物の導入は行わず、周囲からの植物の自然侵入を待つ方法。周囲の生物的ポテンシャル(*1)が高く、対象箇所が小規模な場合には有効である。しかし大規模な場合は、景観に問題があり土壌侵食などが生じやすいうえ、コンクリート構造物などの持ち込み、侵食防止剤の大量施用などが必要となる場合などが多い。種子の供給源を欠くなど立地ポテンシャル(*2)が低い場合は植生回復が著しく遅れる事態も生じる。

 

*1 周囲の生物相、場のサイズ、形など、種の供給力、維持力によって決まる、対象の場における生態系成立の潜在可能性

*2 ある空間に成立可能な生態系の潜在可能性。地学的要因によって判定される地学的ポテンシャルと、生物学的要因によって判定される生物的ポテンシャルがある。

 

2)  現場産植物と埋土種子の利用

工事対象箇所に生育していた植物を利用する方法。移植などして、植物を採取して用いる場合、仮植えスペースが必要で、工事の全体計画にうまく移植計画を組み入れる必要がある。手間がかかる、活着率が低いなどの問題があり、より確実性が高い緑化・植栽方法の開発が望まれる。種子を採取し栽培すると活着率は高いが、育成に必要な時間がより必要となる。埋土種子は有効な現場産資源で、その利用は微生物を含む土壌もあわせて、保存されるので、生物多様性の保全に対しては有効な方法の一つである。しかしながら、発生する植物は休眠性を有するものに限られ、それらの種・系統を無意識に選抜していることになるので、まったく生物保全的というわけではない。一部の先駆的な植物が優先・繁殖する傾向があり管理が難しい、土壌侵食を受けやすいといった問題もある。

 

九大についていうと、盛土法面の緑化では根株移植や林床移植により、現場産植物・埋土種子が利用されており、今後の帰化植物の侵入状況や緑化の活着について気をつけて見守る必要があると思われる。切土法面の緑化については、まだ牧草を被覆しているだけで生物多様性という観点からは十分とはいえない。切土法面を1)のみによる緑化、2)のみの緑化、1)と2)を組合せての緑化と3パターンに分け実験的にその後の植生回復を調査してみるのも良いだろう。

   また今までの事例として福井県中池見の放棄水田周辺の表土を用いた法面と用いていない法面の無播種施工による植生回復を三ヶ月間追跡調査したところ、表土を用いた法面の方が帰化植物よりも在来種が優占し、風散布型植物の被覆割合が低く、裂開型や動物散布型の被覆割合が高いという興味深い研究結果もあった。    (柏原一凡)

 

4.まとめ

 

  本レポートを書くにあたり、一番悩まされたことは、本当に法面を生物多様性豊かなものにすることが環境に配慮しているといえるのかという問題だった。前にも述べたように法面は主に道路などを造成する際に出現するもので、道路をむやみやたらに造らないことが、実はもっとも生物多様性を守るのによい方法ではないのかという疑問だった。法面の生物多様性という発想自体悪くはないのだが、その裏で、それがむやみな道路開発を正当化するために生まれてきた何かネガティブな発想でもあるようにわたしは本レポートを書くに連れて思った。同じようなことが九大の移転についてもいえる。移転自体、環境の破壊であると私は思うのだが環境対策といったものをすることで環境にやさしいものに生まれ変わってしまう。そこになにか矛盾を感じた。たしかに元岡で九大がしようとしている環境対策自体悪いものだとはいえない。しかしよく考えたら、「環境に配慮した」ということばは聞こえがいいのだが、もともと自然豊かなところを意図的に開発し破壊した後、それを復元したことで果たして九大のいう「環境に配慮した」ものといえるのか、「環境にやさしい」ものといえるのかと思う。九大の移転から私たちが学んだことは、なにをするにも初めの計画段階で環境保護がしっかりと意識されてなければならないということではないだろうか。九大はこれを教訓に壊した環境をどう立て直すのかという研究をするのに絶好の機会といえ、環境復元のいい例としても今後のお手本になるに違いない。

 

◎参考・引用文献

日本緑化工学会誌 第26巻 第2号 (2000) 特集「郷土種問題を考える」 

   特集「郷土種問題を考える」をはじめるにあたって  亀山 章

   切土法面の緑化現場からの郷土種問題  中野裕司@

日本緑化工学会誌 第25巻 第4号 (2000)

   埋土種子を用いて緑化したのり面の植生の推移  細木大輔・米村惣太郎・亀山 章

日本緑化工学会ワークシップ「郷土種問題を考える」 −生物多様性豊かな緑化のために−

   保全生態学の立場から  倉本 宣

   現地からの問題提起   中野裕司A

九州大学 新キャンパス・マスタープラン2001 −21世紀を活き続けるキャンパスの創造−

日本緑化工学会集会企画「郷土種問題を考える」その2  植物問題検討委員会

  無播種施工のり面における植生回復 ―福井県中池見を事例として―

                大阪府立大学 緑地環境保全学 柏原一凡

http://rosa.envi.osakafu-u.ac.jp/research/99/kazubon-soturon.htm