竹林の拡大とその対策

        1TE01011Y   貴田 麻利江 

 

1 はじめに

「食べるものはタケノコ、庇う(おおう)ものはタケの瓦、載ぶ(はこぶ)ものはタケの筏、焚くものはタケの薪、衣るものはタケの皮、書くものはタケの紙、履くものはタケの靴、臥すものはタケの床、真に一日たりとも、このもの無かるべからずと謂うべし」と宗時代の詩人が12世紀ごろ詠んでいる。一方、日本でも縄文時代に漆器、笊、籠などの生活用具のほか食品としてタケノコが食卓に並んでいたことが知られている。また、華道用具、茶道用具、管楽器、さらに詩歌などにも取り上げられて、伝統的な日本文化を構築し、かつそれを育て上げてきた。このようにタケは古くから人々、とりわけ日本人の生活と深いかかわりのある植物である。ところが、今日では竹林の拡大のため、竹を迷惑がり、伐採しなければいけない状態に陥っている。実際、九大移転予定地でも雑木林に竹林が広がり、周囲の木を枯らしていることが確認されている。なぜここまで竹林が猛威を振るうようになったのだろうか?そこで竹林の拡大の原因を知ると共に、その対策を考えていきたいと思う。

 

2 竹林の現状

近年、全国各地の里山で、竹が自然に分布を拡大して周囲の森林を侵食する様子が観察されている。その多くは竹の中でも勢いの強いモウソウチクで、日本の竹林の3分の2を占めている。モウソウチクは1700年代に中国から渡来した帰化植物で、タケノコや竹材生産のために各地に広く植栽された。竹林の拡大により雑木林が枯れたり、竹の地下茎が下水管を持ち上げたりするという問題も発生している。また、周囲の雑木林に生息する貴重な動植物が絶滅するなど、森林の生態系にも影響を及ぼすことが懸念されている。このように竹林の拡大は造林地への侵入や里山景観の変化、生物多様性の減少など社会的にも大きな問題である。

具体的に九大移転地内のタケを調べてみると、タケは1年で10〜20m広葉樹林へ侵入し、また、タケが増えると枯れ木がそれに比例して増えていることがわかる。(図1)

 

 

3 竹林拡大の原因

      

(1)竹林の放置

一つ目の原因は竹林や、竹に侵入されている山林、原野が放置されていることである。その理由として、

建築様式が変化し、土壁が減り、竹材の需要が減少したこと。

人々の生活様式が欧風化し、竹製品の利用が減少したこと。

プラスチック製品など、竹製品の代替品が出現したこと。

タケノコや竹製品が安価で大量に輸入されること。

竹生産者の高齢化が進み、後継者不足になったこと。

などがあげられる。実際、1965年に比べ、タケノコの消費量は4倍近く増えたが、輸入品が26倍にもなり、国産は15%しかない。また、図3からわかるように、国産竹材の生産量は21万tから8万tへ、モウソウチクに限っていえば13万tから4万tへと約3分の1に減少している。この結果、農家に栽培管理を放棄された竹林が強い繁殖力を持つ地下茎で周辺の森林へ拡大している(図2、3)

 

(2)竹の競争優位性

竹林が過密になって暗くなると、竹は光を求めて外に向かう性質がある。竹は成長が速く、地下茎によって繁殖する。新しくできた芽(タケノコ)は地下茎に連なるほかの竹の栄養で育つため、地下茎は1年に5〜6mも伸びることがある。地上部はピーク時には1日に80〜100cmも伸び、タケノコから2〜3ヶ月で一人前の大きさになり葉を茂らせ光合成を開始する。そして高さは大きなものは20mに達する。一方、木は竹よりもはるかに成長は遅く、スギ・ヒノキは普通20年経っても10m前後にしかならない。また竹は常緑で冬期になっても葉を落とさない。つまりタケは冬でも光合成できるが、落葉樹はできないので、その分タケは速く成長する。雑木林では主木であるコナラやクヌギが落葉樹のため春先から初夏まで林床に日が射し、林床の植物や若木が光合成を行い、エネルギーを蓄えることができるが、一方、竹林では林床に日が射さず何も生えることができない。このような競争優位性のため既存の林に竹が侵入して占拠してしまうのである。(図4)

 

(3)竹の地下茎

地下茎には大きく分けて3種類ある。九大移転地でみられるのは「単軸型地下茎」である。日本の竹林のほとんど(モウソウチク林、マダケ林など)が、1本、1本の竹がばらばらに立つ「ばら立ち型竹林」と呼ばれるもので、単軸型地下茎を持つ竹から形成される。そこで、短軸型地下茎を取り上げる。

単軸型地下茎:地下茎が地中を這うように伸び、繁殖する。その地下茎には節があり、その節部には芽がある。その芽は、温度や水などの一定の条件が満たされた時期になると、タケノコとなって伸長し始め、そして竹になる。(図5)

竹林の地中には地下茎が無数に広がっている。その地下茎を掘り上げてみると、意外にも地下茎はいくつかの一つながりを形成していることがわかる。次の図(図6)はマダケ林の中から掘り上げた一連の地下茎の広がりである。一番古い地下茎は9年生で、ほぼ腐りかけた状態になっている。その後、毎年新しい地下茎を伸ばし、この例では一連の延長は120mにも達している。この一連の地下茎には16本の竹、4株の切り株があった。つまり、竹林の地中にはこのような一連の地下茎が何組も存在し、また、その勢いで竹林を拡大していっている。

 

(4)生活様式の変化

かつて里山は人々の生活に欠かせない燃料を供給する薪炭林であったため、竹などが侵入してきたらすぐに切り取っていたはずである。しかし、現在ではその機能を失っているので、誰もその気になって里山を守ろうとしていないため、いったん竹が侵入すると容易に拡大してしまう。

 

4 対策

対策として、竹を成長させないように取り組む方法と、竹の有効利用を考える方法の2つが考えられる。

(1)まず、竹林の拡大を食い止める方法は、京都府では試験地を設け、鉄板を地下0.7m〜1mまで打ち込んだり、侵入竹を繰り返し伐採したりするなどの試験を行っている。試験は2年間程度行い、効果があれば他の地域でも実施する予定である。造林地内に出た新竹を切り取ると、養分を作り出す母竹からの距離が遠くなるため、地下茎を伸ばす力が減退し、伸張は止まってしまう。要するに、生えては困るところに発生した竹を切り取ることで拡大が防げることになる。その場合重要なことは、タケノコの時に切り取ることである。

(2)次に、有効利用という点では、竹炭、竹酢液、竹チップ、バンブーパウダー、タケノコ栽培、竹材生産などがある。これらの方法では、伐採した竹を廃棄するのではなく、新しく利用することができるようになる。また、竹材の代替品として近年プラスチックが普及しているが、プラスチックは燃やすとダイオキシンを発生するという害を持つため、竹材を見直し生産につなげることはとても有益なことだと思う。

 

5 結論

これらのことを考えると、おいしいタケノコが食べられるからといって、単純に喜んでばかりはいられない。もともと竹は、人間がタケノコや竹材の利用などのように、自分たちの生活を豊かにするために中国から取り入れ、栽培し始めたものである。しかし、近年はその竹に被害を受けている。需要が少なくなったら見放すというような身勝手な人間のせいで、自然にしっぺ返しをされているように思う。動物のことを考えてみると、人間に害を与えるからといって殺し続けたために絶滅してしまったものもいる。それと同様に、タケを邪魔者扱いして伐採するばかりでは、いつかタケはこの世から姿を消してしまうかもしれない。今まではタケが拡大するという状況を打破しようと研究してきたが、今後は人間と自然とが共生できるようにしていかなければいけない。タケは他の植物にはない成長が速い、弾力に富む、強靭などの特性をもつ。これらをうまく活用しないわけにはいかないだろう。タケの有効利用の一つに伝統工芸がある。今日、私たちの身の回りで、竹製品、竹材を利用した建築などを見かけることはほとんどなくなってきた。世界は日ごとに移り変わり、科学は常に進歩している。しかし、一本のタケから作り出される伝統工芸品には日本人の心の故郷でもある文化がいつまでも宿っているに違いない。日本の文化を象徴するタケと、そのタケを利用する日本の伝統を大切にしていかなければいけない。

 

 

 

引用・参考文献

岸本定吉(監)、池嶋庸元(著)(1999)「竹炭・竹酢液のつくり方と使い方」

内村悦三(著)(1994)「竹」への招待−その不思議な生態−

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