九州大学大学院 理学研究院 生物科学部門 情報生物学講座

 
動物発生学研究室 


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  Research

生殖に関する諸々の大命題を解き、生命連続性の仕組みを理解する

 生命誕生から40億年の間、生物は次世代を残すことで連続的に存続してきました。その連続性を保つのが生殖であり、生殖細胞の情報が次世代に伝達されることが連続性の仕組みと言えます。そのため生殖細胞は、個体の一生を通じて大切に維持されると考えられています。成体では生殖腺(卵巣や精巣)が特殊な環境を提供することで生殖細胞を維持しています。生殖腺が生殖細胞を維持する仕組みも十分に調べられているわけではなく、興味深い研究対象であるのですが、我々が注目するのは、次世代生命体を新構築するタイミング、つまり胎児(あるいは胚体)の形成期(胚発生期)です。そこには未解明の重要な問題が複数存在しています。そもそも胎児期にははじめ生殖腺がありません。生殖細胞はいわば“むきだし”で存在し、しかも胎児の体を構成する細胞から遠くかけ離れた体外にあるのです。それらはのちに体内で形成される生殖腺まで長距離を移動して定着します(図1を参照)。

・それでは、発生期の生殖細胞はどのようにして生殖細胞としての性質を維持しているのでしょうか?
・また、生殖細胞はどのような仕組みで生殖腺までたどり着くのでしょうか?
・そもそも、生殖細胞の性質の実体とは何なのでしょうか?
・どうして生殖細胞は初めから生殖腺の中ではなく、体の外で作られるのでしょうか?
一見して合理的には見えないこのような現象にも大きな意味があると予想しています。我々は発生生物学上の謎として残されたこれら命題を明らかにするため、日々研究に取り組んでいます。



材料として鳥類を使うということ

 発生生物学とは胚(胎児)の成長の仕組みを明らかにする学問です。その仕組みを解くための解析手法は簡単にいえば、胚を「視る」こと、そして「触れる(操作する)」こととなります。その点、鳥類は優れた動物ということになります。なぜなら、発生の様式が卵生ということで、卵の殻を開ければ生きた状態の胚体を覗き見たり、操作することがたいへん容易であるからです(図2)。鳥類のメリットは他にも、有羊膜類に分類され、哺乳類と近い系統関係にある高等脊椎動物であること(すなわち得られる知見はヒトにも還元しやすい)、発生が早い・卵を大量に得られるなどの理由からアイデアをすぐに検証できるということもあります。このようなことから、動物の発生研究分野においては昔からよく使われてきました(古くはアリストテレスも鳥類胚の観察をしていました)。近年は胚に遺伝子をピンポイントに強制発現させる方法(エレクトロポレーション法)も開発されています。このような鳥類の利点を最大限活かす解析によって研究を進めています。



鳥類のポテンシャルを最大化させる技術開発と応用研究

 鳥類の利点は先に述べたわけですが、マウスや小型魚類といった発生学研究材料のスーパースターと比較すると、鳥類はマイナーな存在であるのも事実です。その大きな要因は、鳥類では発生様式に起因する問題から、遺伝子改変動物の作成がたいへん難しいということでした。  我々は近年この問題を解決に導く方法を手に入れました。それは、鳥類の始原生殖細胞(発生期の生殖細胞)の培養法を大幅に改良することに成功したことでした(図3)。我々の方法で培養した始原生殖細胞は、ニワトリ胚へと移植すると生殖腺まで移動し、のちに配偶子(精子や卵)へと分化し、次世代を生み出す能力を持つと期待されるものです。培養細胞として増やして維持することができるので、好みに合わせたゲノム編集も容易に行えます。すなわち我々は現在、もともと鳥類の持つ研究材料としての利点に、遺伝子改変鳥類の作成技術を加えた強力な解析系を手中にしつつあります。
 そして、鳥類の始原生殖細胞の培養法と遺伝子改変鳥類の作成技術が与えるインパクトは、発生生物学などの基礎研究に対してだけではありません。ニワトリやウズラといった鳥類は優れた研究材料であると同時に、我々人類に必須の家畜でもあります。この点は他の実験モデル生物とは大きく異なる点です。遺伝子改変技術により、トリインフルエンザに罹患させなくすることや、卵に有用物質を産生させるいわば「工場」として利用すること、アレルゲンフリーの卵を作成することなど、様々な応用が見えてきます。また、日本の野生鳥類に言及すると、およそ700種という多様な生物集団を形成しているが、残念なことに、実にその13%の野生鳥類が絶滅の危険にされています。我々の鳥類の始原生殖細胞の培養技術により、これら絶滅危惧種(トキ、イヌワシ、タンチョウなど多数)の始原生殖細胞を増やし、凍結保存できるかもしれません。さらに、絶滅危惧種の生殖細胞をニワトリ胚などに移植して、ニワトリに絶滅危惧種を産ませ個体数を増やすことができるかもしれません。我々はこれら独自技術を、上記の医療産業応用や生物資源の保全にも活かせると期待しています。




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